エンディングノートとは映画『エンディングノート』内では「死の段取り」とも称されていますが、自身が死亡した後や病気などにより意思の疎通ができなくなったときに備え、葬儀や治療方針の希望、資産などの整理や手配などについて、家族や友人へ伝えたいことをまとめたものがエンディングノートです。エンディングノートに書くべき内容や形式に、決まりや制限はありません。書きやすいように項目などが整理された専用のノートも市販されていますが、家族や友人に宛てた手紙のように、自身の希望や気持ちを書き連ねるだけでもエンディングノートは成立します。遺言書との違いは遺言書とエンディングノートとの一番大きな違いは、法的な強制力の有無です。遺言書は記述形式や保管方法にも厳格な決まりがあり、記載内容も死後のことのみに限定されます。一方でエンディングノートには法的な効力がないため、遺産の相続先などについて記していたとしても、死後に必ずしも希望通りになるとは限りません。ただし、エンディングノートには介護や延命治療の希望など、自身の人生の最期をどう選択し、どのように過ごすことを望むかを記すことができます。エンディングノートに書いておくべき内容エンディングノートに必要な情報をあらかじめまとめておくことで、いざというときに、大切な家族の負担を軽減することができます。自身の基本的な情報氏名や生年月日、住所、血液型などのほか、本籍地やマイナンバー、基礎年金番号などの情報を整理し、一括に管理しておきます。また、遺言書を作成しているか否か、どこに保管してあるかも記しておくといいでしょう。資産や債務について場合によって、家族は亡くなった悲しみに暮れる暇もなく、相続や財産分与についての対応に追われることにもなり得ます。預貯金の口座情報だけでなく、所有する不動産や生命保険、有価証券などを、それぞれの契約書や権利書などの関係する書類ととともに整理して、準備しておきましょう。住宅ローンなどの債務がある場合は、それも忘れずに記載しておきましょう。資産をエンディングノート上で整理することは、自身の現在の経済状況を改めて把握する契機にもなります。残された人生にどのくらいの経済的余裕があるかを可視化できれば、人生の終盤を豊かに、心置きなく過ごすことにつながります。そうした点も、エンディングノートを作成するメリットの一つです。契約している端末やサービスについてスマートフォンやタブレットなどの通信機器の契約先や、そのIDやパスワードなどもまとめておくと便利です。IDなどが不明な場合、死去後の解約時に面倒なだけでなく、端末内の写真や動画など、家族が引き継ぎたいであろう大切なデータを引き出すことが難しくなってしまいます。また、契約しているサブスクリプションサービスなども一覧にし、同様にIDとパスワードもわかりやすい状態にしておけば、家族が利用しない場合の解約がスムーズに済みます。終末医療や介護の希望について自身がどのような終末医療や介護を希望するかをエンディングノートで明記しておけば、不慮の事故や病気などにより家族や医療関係者との意思疎通が難しい状態に陥った場合でも、その希望を尊重してもらうことができます。年齢を重ねて判断力が衰える前に、自身がどのような終わりを迎えたいかをじっくり考える機会になるとともに、いざというときに大きな判断を迫られる家族の、心の負担を軽くしてあげる一助にもなるはずです。葬儀やお墓の希望についてコロナ禍を経て密葬や家族葬が見直されたこともあり、葬儀の形式も多様化しました。また近年では海や思い出の地での散骨など、納骨やお墓のあり方もさまざまに変化しています。自分の望む葬儀の方法なども、エンディングノートには記しておきましょう。特定の宗教や宗派を信仰しているなら、その旨の記載は忘れずに。菩提寺などの関係で葬儀用の費用を積み立てている会館などがあるなら、それも必須記入事項です。どんな形式の葬儀を希望するか、葬儀に参列してほしい人は誰かなどとともに、遺影に使う写真はどれにするかも、あらかじめ選び指定しておきましょう。親族や友人などの連絡先世間的な「年賀状じまい」の風潮もあり、同居家族であっても親戚や友人の連絡先を把握していないことが増えています。「亡くなったことは知らせてほしい相手」「葬儀に参列してほしい相手」などとリストアップし、どんな関係性であったかとともに記しておけば、自身の悔いのない最期の一助になるでしょう。また、それぞれの相手との思い出を振り返り、相手へ遺したいメッセージをゆっくり考えて記すのも、素敵な時間の過ごし方になるはずです。思い出の品や形見分けについて資産的な価値のあるものや思い入れのある品物を、死後に譲り渡したい特定の相手がいるならば、誰に何を譲渡するかを整理し、まとめておきましょう。その品の詳細や保管場所とともに、どうしてそれを譲りたいかという気持ちをしたためてもいいかもしれません。前述の連絡先とともに、譲った相手と感情や思い出を共有することもできそうです。ペットの処遇もしもペットを飼っているなら、自身の死後に面倒を見てくれる新しい飼い主を見つける必要があります。名前や性別、ワクチンの接種歴や既往歴なども一緒に記しておきましょう。エンディングノートを記入するときの注意点エンディングノートには個人情報やパーソナルな内容も多数盛り込まれるだけに、扱いには気を付けるべきこともあります。暗証番号は明かさない資産状況はエンディングノートを作成する上で大切な要素です。しかしもしもエンディングノートを紛失してしまった場合に悪用されないよう、銀行などの口座やクレジットカードの暗証番号を一緒に記載するのは避けましょう。遺言書ではないすでに述べたとおり、エンディングノートは法的な強制力のある遺言書と異なるため、財産分与や相続の割合を指定することはできません。遺産に関する特定の強い希望があるなら、別途遺言書を作成する必要があります。定期的な更新を終末医療や延命措置をどうするか、一度決めても心境が変わるのは人間なら当然のことです。健康状態が変わったり子孫が増えたりすることで、資産状況にも変化が起きることも多々あり得ます。そうした心境や状況の変化を定期的に見つめ直し、確認して、その都度新しい気持ちと要望を更新していきましょう。保管場所に注意重要な個人情報や大切な相手への個人的なメッセージを不用意に見られたり紛失したりしないよう、エンディングノートをどこで保管するかは慎重に決めましょう。ただ、あまりにもわかりづらい場所で保管していると、いざというときに家族に見つけてもらえない、という事態にもなり得ます。また、個人のパソコン上などでデジタルデータで作成した場合、端末のPINコードが家族にはわからなかったり端末自体が故障したりしてエンディングノートが取り出せないことも想定されます。エンディングノートを遺していることとともに、その保管場所や端末の解除方法も、家族に伝えておきましょう。人生の総まとめにエンディングノートの活用を「人生100年時代」といわれるようになり、老後をどう生きるかを、個人がより深く考えることを迫られている昨今。これまで生きてきた「自分史」を記すように、エンディングノートを使って人生の総まとめをしてみるのもいいかもしれません。自分の死後、遺される家族のためだけでなく、自分のこれからの人生のためにもエンディングノートの作成を検討してみてはいかがでしょうか。文:西沢裕子