どこの家にもいつか来る「実家どうする問題」実家から遠く離れた場所で暮らしていると、実家に帰省するのは年に数回。ここ数年は、新型コロナウイルスの影響で、しばらく直接会うことができなかった人も多いはずです。「久しぶりに会った親がなんだか小さく見えた」「いつの間にかすっかりおじいちゃん・おばあちゃんになっていて驚いた」という声を聞くことも。物理的に離れていることで、親の些細な変化に気づきにくいということもあるでしょう。親も子どもも変化を受け入れつつ、生活を続けられればよいのですが、「階段でケガをしたことをきっかけに、一人で外出できなくなった」「物忘れがひどくなり、病院で検査をしたら認知症だと診断された」といった理由で、親だけで実家に暮らすのが突然難しくなってしまうことも。親に何かあってもすぐに子どもが駆けつけられないことは、お互いにとって気がかりなことです。いつかはそんな日が来るかもしれないとは思っていたけれど、このタイミングで来るとは……ということだって珍しくはありません。いざというときが来てから対応するとなると、情報を十分に集めたり、選択肢をじっくりと検討したりする時間や余裕がない場合もあります。その結果、親にとっても子どもにとっても納得できる選択がしづらくなり、お互いに「もっとこうすればよかった」と後悔が残ってしまうことも。親子どちらにとっても納得できる選択をするためには「いざというときが来る前」から、これから先のことを見据え、「これからどうしたいのか」を考えながら、準備しておくことが大切だと言えそうです。実家をどうするかは、「親の残りの人生」をどうするかということ実家は「家族が一緒に過ごし、成長してきた場所」であり、そこで暮らし続ける親にとっても、そこを離れた子どもにとっても、それぞれに思い出や思い入れがあり、かけがえのない場所であることは変わりません。「お父さんが一生懸命働いて手に入れた家を簡単に手放せない」「子どもたちが帰ってくる場所をなくしてしまうのは申し訳ない」親も子もお互いのことを思うからこそ「実家をどうするか?」という具体的な話をしづらいと先延ばしにしてしまいがちです。「実家」という場所を大切にしたいという思いも大事ですが、それにとらわれ過ぎてしまうと、なかなか先に進むことができなくなってしまいます。親が暮らす「実家」を今後どうしていくかということは、これから人生の最後のステージを迎えようとする親の残りの人生をどう過ごしていきたいのかということにつながるのです。親の「実家をどうしたいか?」を優先しつつ、子どもがサポートをしていく親には「子どもにどう思われるか?」とか「迷惑をかけないようにしたい」とかではなく、自分自身がこれからどうしたいのかをしっかりと考えてもらい、子どもは親の希望を叶えるために、自分に何かできるのかを考える。「親の残りの人生」がお互いにとって無理のない、より豊かなものになるよう、お互いに寄り添いつつ、一緒に向き合っていくことが大切でしょう。そのためには「まだ元気だからいい」ではなく「まだ元気なうちに」に、まずは親子で「実家どうする問題」について、話をするところからはじめましょう。親が「実家」をどうしたいのか、これから先どう生活していきたいと思っているのかを知ることで、次のステップへと進むことができます。・これからもできるだけ長く実家に住み続けたいと考えているのであれば、足腰が弱くなっても暮らしやすいように、浴室やトイレ、階段などに手すりやスロープをつけるなどのリフォーム、老朽化している部分があれば修繕するなど、安心安全に暮らせるように家自体を整える。・実家を手放して生活に便利なエリアや子どもの近くに住み替えたいと考えているのであれば、不動産会社に査定を依頼・大まかな価格を把握した上で住み替え先を検討する。・自分がいなくなった後も実家を残してほしいと考えているのなら、賃貸に出すなど有効活用できる方法を検討する。このように、親が実家をどうしたいのかを聞いたうえで、子どもとしてどうサポートしていくかを決めていくとよいでしょう。いきなり実家をどうするかを考えるのではなく、まずは実家にある不用品の処分から始めるのもひとつの手です。長年暮らしていくうちに溜まったものはもちろん、子どもの卒業文集や写真、長年置きっぱなしになっているものなどありませんか?不用品の選別や処分には案外時間がかかってしまうもの。早めに取りかかるとよいでしょう。まずは「実家どうする?」と親に伝えることから始めよう実家の今後について「まだ元気だから先のことなんて考えられない(考えたくない)」という親もいるでしょう。しかし、まだ元気だからこそ先のことを考える余裕があるのです。親子ともまだ心身ともに元気なうちに「実家どうする?」と話してみましょう。「実家のことを早めに考えないといけないのはわかってはいるけれど、先のことなんて考えられない」「まだ、考えたくない」という気持ちもわかりますが、心身ともに元気で自分の意思をしっかりと周りに伝えることができる今だからこそ、「本当にどうしたいのか」「希望を叶えるにはどうしたらいいのか」とじっくりと向き合う余裕があるのです。いざという時が来る前に、まずは親子で「実家」について話をするところからはじめてみましょう。実家に対するお互いの思いを理解し合うことで、見えてくることもあるはずです。文:大熊 智子