両親が実家じまいを決断。家族仲があまりよくないからこそありがたかった ――実家じまいをする前、家族の皆さんはそれぞれどのように暮らしていたのですか。20数年前に、まず姉が大学進学で上京したんです。そのまま東京で家族をつくって、現在も自分の家族と都内の一軒家で暮らしています。その後、私も東京の大学に進学しました。私が上京してから、親も仕事の関係で東京に引っ越すことになったんで、一時期、家族全員が東京でバラバラ暮らしていたんです。そのときに実家が空き家になりました。数年後、親は東京から北海道に戻ったんです。ただ、老後のことを考えて、郊外の一軒家よりも都心のマンションの方が便利だという理由で、もともとあった実家とは別にマンションを購入してそっちに引っ越したんです。空き家のまま残っていた実家には、私がUターンするときに戻りました。そのときに、両親と一緒に実家で暮らすという選択もあったのですが、そんな話は1回も出ませんでしたね。それぞれすでに生活があるからという理由もあったと思いますが、もともとうちは家族同士があまり仲良くないんですよね……。――松本さんがUターンするまで、実家が空き家のまま放置されていたのには、どういった理由があったんですか。「実家に置いてあるモノが処分できない」という理由しかなかったかもしれません。そもそも、親が東京に行った時点で実家を手放すという選択もあったはずなんですよね。その時点で、すでに住宅ローンは払い終わっていたらしいですし、築年数なども考えると、もっと早めに実家を手放していたほうがもうちょっと高く売れたんじゃないかな。空き家になっていた期間、固定資産税などもずっと払い続けていたわけですからね。でも、モノが片づけられないっていう理由で、親は実家を放置することを選択したんです。しかも、一度実家から離れちゃったから、実家に対する愛着もなくなってしまった。実家に戻らず新しいマンションを購入するっていう道を選ぶくらい、モノを片づけることから逃げたんだと思いますね。――でも、どうしてご両親はこのタイミングで実家を売ると決められたのでしょうか。父親が70代半ばにさしかかって、自分の最期について考え始めたみたいなんです。もともと実家を私に相続しようと考えていたみたいなんですが、私が自分の家を買っちゃったので、その算段が崩れてしまったんです。「自分の死後、姉妹で遺産でもめるくらいなら、自分が元気でまともな判断ができるうちに実家を売ってしまったほうがいいだろう」と思ったようで、ようやく重い腰を動かしたんです。――実家を売ると聞いたとき、率直にどう思いましたか。家族の仲があまり良くないからこそ、親からそういう話をしてくれたのはありがたいなって思いました。私から実家の処分を急かすのはあまりにも情がないですし、さらに家族の仲が悪化する可能性もありますからね。ひと昔前のベッドタウンにある家ですし、築30年以上経っているので、正直買い手が見つかるか心配だったのですが、なんとか売却できてよかったです。一人で寒さに凍えながら、両親が実家に残したモノを片っ端から処分――実家の片づけはどのくらいから進めたのでしょうか。私が実家を売却すること自体を知らされたのは、実家の引き渡しの1か月前くらいだったんですけど、売却が決まる前くらいから、両親は実家の片づけを少しずつ進めていたみたいです。両親が自分たちで実家の売却を決めて、自分たちでモノの片づけを始めたものの、自分たちだけではどうにもならないと思ったタイミングで私たち姉妹に連絡したっていう感じだと思いますね。――ご両親だけで片づけるのは大変だったんじゃないかと思うんですが……。大変だったと思うんですけど、モノはあまり捨てずに今住んでいるマンションに持って帰ったみたいです。父の仕事に関わる専門書とかがとにかく多いのですが、あまり処分していないようなので山積みになっているらしいです。母は母で、思い出の品とかを全然捨てることができない人で。母が中学生だったときのテストとか、昔の服とか、ヨレヨレになったカビだらけのパンツとか、15年前に消費期限が切れた調味料とか、ずっと実家に残していたんですよね……。私がUターンして実家に戻ったときに、母に許可を取りながら捨てられるモノは捨てたのですが、「いつか使えるから」とか「いつか見返すかもしれない」とか言うんですよね。――ご両親から連絡が来た段階では、実家はどのようになっていたんですか。自分たちのマンションに移動できなかった家電や家具とかが、手つかずのまま残っていました。あとは、「私たち姉妹のモノだから」という理由で残されたものが山積みになっていました。両親としては「自分たちの仕事はこれで終わった」という気持ちだったかもしれませんが、正直「全然片づいてないじゃん」という感じでしたね。しかも、その時点で、実家の引き渡しまで1か月くらいしか残されていなかったんです。さらに最悪なことに、年末で自分の仕事もものすごく忙しくて……。誰も住んでいない家ですから電気も水も通っていないので、スキーウェアを着て片づけていました。トイレも行けないし、本当にヤバかったですね(泣)。――それは大変ですね……! 実家に残っていたものはどのように片づけていったんですか。家電や家具などは、アウトレットショップに持って行ってくれる業者に依頼して一気に処分しました。業者が引き取ってくれないものは粗大ゴミの手配をして捨てました。困ったのは人形とかぬいぐるみ。納戸の一角に詰め込まれていたんですよね。ゴミとして捨てるのはちょっとかわいそうだなと思ったので、全部お焚き上げに持っていきました。正直、片づけながら「なんで自分一人で処分しないといけないの?」って思うこともあったんです。でも、いちいち反論しても時間の無駄だな、と思って淡々と作業を進めました。ただ、とにかく忙しい時期だったので、仕事の合間に業者さんに連絡したり、仕事が終わってから深夜に実家を片づけに行って、明け方にゴミ出ししたりすることもありましたね。どうしても一人で動かせないモノとかは知り合いに手伝ってもらうこともありましたけど、基本的には自分一人で片づけました。あの時期は本当に疲れましたね……。後編では、実家を片づけている最中に姉妹でもめたことや、実家じまいを終えたいま思うことについて語っていただきました。ぜひ、あわせてお読みください。