連載第1回に登場いただくのは、NPO法人となりのかいご代表の川内潤さん。川内さんは、大井が介護問題を考えるときに出会った本『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』の著者です。「子どもは親の介護をするのが当たり前」だという風潮が根強い中で、その真逆をいくタイトルだったこともあり、思わず手に取ってしまった本です。介護に対するこれまでにない視点を与えてくれるお話ばかりで、ぜひお話をうかがいたいと思い、お声かけさせていただきました。第1回は本のタイトルでもある「親不孝介護」について、川内さんにこの言葉を本のタイトルに使った真意をうかがいました。 「親不孝介護ってどういうことですか?」 ――『親不孝介護』っていう本のタイトルをはじめて拝見したとき、「なんて強烈な言葉なんだ」って思ったんです。どうしてこの言葉を使うことにしたんですか。「親不孝介護」っていう言葉は編集者の方と一緒に作ったんですけど、介護について考えてもらう機会を与えるためにちょっとエッジの効いた言葉を作りたいなって思ったんですよね。年間700件ぐらいの個別相談を受けている中で、「親孝行しなきゃ」と思って介護を頑張っている人よりも、「自分は親不孝で申し訳ないんだよね」って言っている人の方が、結果として良い介護になっていたり、親の穏やかさが保たれていたりするケースが本当に多いんです。だから、そういう介護を発信したいなと思って、この言葉を採用しました。――なるほど、そういうことだったんですね。川内さんは年間700件ほど介護の相談を受けているということですが、具体的にどういった相談が多いんですか。本当に相談はさまざまです。例えば、「母親が父親の介護をしていて、母親がどんどん疲れ切っているんだけど、自分が仕事を一旦休んで母親を助けなきゃいけないんでしょうか」といった相談ですね。母親のところに近所に住んでいる妹がひたすら通っているけどうまくいってなくて、妹から「お兄ちゃんは長男なのに、東京で働いていてなんで何も手伝わないの?」って矢のようにLINEが来て困っている、という話もあります。あとは「コロナ禍でテレワークを導入した企業が増えたので、それを活用して親と同居して介護してみたんだけど全然うまくいかない」とか。もしくは「これからテレワークをして親の介護をやってみようと思うんだけど、どうすればいいですか」といった相談もありました。「介護が始まるので自分の近くに親を住まわせたいがどうすればいいのか」といった相談も多いですね。――介護についてそういった悩みを抱えている人は、他にもたくさんいらっしゃるような気がしますね。そうですね。ただ、そういう方々って正直に言って「あまり介護について考えてないな」って思っちゃうんですよね。ちょっと厳しい言い方かもしれないですけど。――そういった皆さんはむしろ介護について真剣に悩んでいるんじゃないかと思うのですが……そうじゃないんですか?皆さんがそういった行動をとることで、本当に安心な介護につながるのかどうか、具体的なシーンまでは考えていないな、って思うんです。「親の近くで介護を手伝えば不安が解消できるんじゃないか」って思っているかもしれないんですけど、実際に不安が解消されることはないですからね。親がだんだん忘れっぽくなっている姿とか、立ち上がるのにものすごい時間かかる姿を直視して安心できる人は、多分その親のことはもう好きじゃないと思うんです。元気なときの親の姿が自分の中にあるから、そうじゃない姿を見て皆さんすごくショックを受ける。余計に「この先どうなるんだろう」って不安になるんですよね。あと、ほとんどの社会人は“課題解決思考”が根づいていて、自分が直接行動を起こすことで、自分の不安を解消したり、課題を解決したりするのが当たり前だって思っている人が多いんです。でも、高齢者の介護ってその思考で課題を解決できないんですよね。――“課題解決思考”では介護の課題を解決できない、とはどういうことなんでしょうか? そもそも介護が必要な人って、病気とは違って、薬や手術などで回復するような状態じゃないんです。「介護は撤退戦」という言葉もあるくらいで、どんなに頑張ってもその課題は解決できないんです。だから当然不安も解消されません。介護においては、その課題とともにその人が生活していくことが一番望ましい状態だったりするんです。でも、わたしたちはそういった課題を抱えた親に対して「歩くと骨折するから歩かないでくれ」「やけどするから火を使うな」「道に迷うんだったら外に出るな」って思ってしまう。でも、それって結局、親の行動を制限させることだから、親の介護をより進行させることにつながってしまうんです。そういうやりとりを親と繰り返していくうちに、当然、家族の関係もどんどん悪くなっていきますよね。誰もそこに疑問を持たないまま、「親の介護に関わってみたらうまくいかない」という人が多い。本当に親のためになるかどうかまで考えきれていないってことなんだと思います。それが繰り返されているのが、日本の介護の現状なんですよね。“親の介護はこうするべき”というところでとどまってしまって、どこか思考停止をしているところがあるように感じます。自分と親の関係にとってその介護が本当に良いかどうか、親にとってそれが本当に幸せなのかと考えている人は、実はそう多くないなと思うんですよね。次回も引き続き川内さんにお話をうかがいます。第2回は「介護について親に話すタイミング」について、お聞きしました。次回もお楽しみに。