子育てと介護、どっちを優先すべきですか?――わたしたち世代だと「子育てと介護の両立で苦労する」という話しもよく聞くのですが、川内さんの元にもそういった相談はありますか。そうですね。親の介護と子育てを同時並行するいわゆる「ダブルケア」の状態で、わたしのところにご相談にいらっしゃる方もたくさんいますね。親の介護と子育てが同時並行になったら、「必ず子育ての方を優先するように考えてください」ということを伝えています。――どうして介護よりも子育ての方を優先すべきなのでしょうか。親が直接子どもを育てると、子どもとの愛着形成や信頼関係ができ、子どもが自己肯定感を持って成長できるようになります。でも、自分の親の介護の場合、親とはすでに親子の関係ができあがっている状態なので、そこに無理に関わろうとするとお互いの関係が悪化する可能性が高いんです。オムツ交換や入浴のサポート、買い物の付き添いをたくさんやったからといって、今以上に親子の関係が良くなるというわけじゃないですよね。 ――確かにそうですね。ただ、親の介護に関わらないとなると、後ろめたさを感じる人もいるんじゃないかと思うのですが、それでも子育てを優先したほうがいいんでしょうか。実際にそういう思いを抱える人も少なくないです。そういう思いがあるから、親のデイサービスの付き添いがあるから、子どもの運動会や授業参観に行けないっていうお母さんもいるんですけど、絶対に子どもの学校の行事に行ってあげるべきです。そもそもデイサービスは付き添う必要ないし、誰かに任せることもできるけど、子どものこの学年での運動会や授業参観はこの日しかないんですよ。そうお伝えすると、ハッと我に返る人が多いですね。ダブルケアになっている人ほど、やらなければならないタスクが溢れかえってしまっているから、思考停止しやすいんだと思います。とにかく毎日頑張って日々タスクをこなしていっているんだけど、でもそういう状態だと「本当にこれ親のためになっているのか」っていうことがわからなくなってしまうんですよね。そして、結局親の介護でイライラして子どもに当たってしまって、子どもとの関係が悪くなってしまうこともあるんです。しかも、この子どもからすると、自分のお母さんとおじいちゃんやおばあちゃんが毎日ケンカしているんですよ。そうすると子どもは「僕がおじいちゃんやおばあちゃんの相手を手伝えたらお母さんが楽になるんじゃないか、お母さんを守れるんじゃないか」と次第に思うようになって、この子が今度はおばあちゃんの相手をするようになる。これがいま社会問題になっている“ヤングケアラー”につながるんです。そういったリスクがあるということも知ってほしいんですよね。――まだ子育て世代ではないものの、若くして親の介護に直面している人たちの話もよく聞きます。そういった場合はどう親の介護と向き合えばいいのでしょうか。やっぱり自分の生活やキャリアを優先して、大事にして欲しいですね。先日も「婚約者との結婚やめて実家に帰ろうと思っている」という相談を受けたんですが、それはやめてくださいってお伝えしました。親の介護にかかりっきりで友達との交流関係も断っちゃって、会社の中でも孤立している人もいるんですよね。特に若くて親の介護に直面すると、自分の同世代はその話が全く出てこない。だからこそ孤立する可能性が高い。「自分の生活を大事にすることを考えるのが先ですよ」って伝えたいですね。あと、以前「母1人、子1人の家庭で育った内定者がいて、その子は母親の介護が必要なんだけど、『すごく優秀だから海外へ転勤させたいと考えている』と伝えたところ、入社を辞退したいと言ってきた」という相談を受けたこともあります。すごくやさしい子ですよね。でも「そもそもあなたが近くにいてお母さんにもし付き添うようなことがあれば、自分のキャリアを築く選択肢を選ばなかった禍根がお母さんに向かっちゃうから、入社辞退はやめた方がいい」と伝えたんです。お母さんに対して良くない気持ちが出てくるぐらいだったら、まずは自分の生活を優先して自分の気持ちに余裕のある中でやれることをお母さんにやってあげてほしいんですよね。自分が社会でどれだけ活躍できているかの方が、本当の意味でお母さんに対しての親孝行になると思うんです。次回も引き続き川内さんにお話をうかがいます。次回はいよいよ最終回。「祖父母の介護を頑張ってきた親との向き合い方」について、お聞きしました。次回もお楽しみに。