これまで介護を頑張ってきた親とどう向き合えばいいですか――わたしたちの親世代は、祖父母世代を介護した経験を持っている人が多いですよね。そうなると「わたしはこうやっておじいちゃんやおばあちゃんの介護を頑張ったんだから、あなたにもできるはず」と言われる人もいるような気がするのですが……。それはありますね。「わたしはこれだけやってるんだから、あなたがわたしの面倒見るのは当たり前よね」っていうことを言われる人も少なくないと思います。でも、親がどのような考え方や価値観を持っていたとしても、わたしたちがちゃんと自己防衛できるようにしておく必要があると思います。親から何を言われたって「ごめんね、仕事が忙しくてどうしてもできないんだよね」って適当に言いながら、地域包括支援センターとタッグを組んで的確に支援を進めるということだってできます。「親に言われたら逆らえない」「親の期待を裏切られない」という考えで、介護を負担することになったら、結果的に親も子も疲弊してしまうことになりかねません。――ちなみに大井家の場合、今後父と母のどちらかが先に介護状態になったら、どちらかが介護することになるのではないかと思っています。こうなった場合、子どもはどう向き合えばいいのでしょうか。 介護する側の親が、冷静に外部のサポートを受けてスムーズに介護を進めるのであれば問題ないでしょう。ただ、親世代の場合、「まずは自分で介護してみてダメだったら外部のサービスを頼ろう」っていう人が多いと思います。何かあったときに支え合える家族であるということは、とても素晴らしいことです。でも、介護をするために家族関係があるわけではありません。支え合いすぎると共倒れになる可能性もあるし、最悪の場合は虐待のようなことも起こりかねない。そして、子どもたちに「自分と同じような介護をしなさい」という要求をされるかもしれません。 家族を大事に思っているからこそ、「介護をすべて家族でやるのは無理だから、外部のサービスに頼ろう」と伝えることも大事なことだと思います。――親は子どもに弱みを見せたくないから、子どもに相談せずに介護を頑張ってしまうんじゃないかという心配もあります……。親が介護を抱え込んでしまうようだったら、地域包括支援センターに連絡してしまいましょう。例えば「父が母を本当に頑張って介護して、しかも完璧にやろうとしているけど、明らかに父は疲れきっている。でも、このことを絶対誰も言わない」と相談すれば、地域包括支援センターは息子さんや娘さんから聞いたと言わずに、ご実家を訪問して様子をうかがいにいきます。そして、一緒に支援の体制を考えてくれるでしょう。こういう場面でご家族がやるべきことは、外部サービスに頼るためにお父さんを説得することじゃないんです。この場面でお父さん説得すると、ケンカになるだけなのでやめた方がいい。むしろお父さんとは良好な関係を築いて、愚痴でも何でも言ってくれるような関係を維持した方がいいですね。このときの子どもの役目は、お父さんからの愚痴を聞いて実態を把握して、それをそのまま地域包括支援センターに情報を伝えることです。「お父さんを助けるために、きょうだいで順番に実家に泊まり込んで役割分担しよう」みたいな考えにもなってはいけません。――両親がわたしの自宅から徒歩5分くらいのところに住んでいるので、親の介護が始まったらサポートするのは当たり前だと考えていましたが、それもできるだけ避けた方がいいんでしょうか。物理的距離感がないから安心だと思わない方がいいですね。心理的な距離感をあえて取れるようにしておくのがいいと思います。毎日のように親の元に行って、毎回ケンカになるくらいだったら、お互いにデメリットしかないですから行かない方がいいです。それに物理的に近い場所に住んでいると、親にサポートが必要になったときに「何で今日私は親のところに行かなかったんだろう」って自分を責めるようになるんです。「行けるのに行かなかった」って。でも、そういう自分も許せるような心構えが必要です。そういう心理的な距離を保つことで、親が外部のサービスを受け入れるきっかけにもなりますからね。親御さんが近くにいることはいろんなメリットもあるんだけど、デメリットも理解した上で関わっていただくのがいいかなと思いますね。――ありがとうございます。ここまで川内さんにお話をうかがってきて、親の介護に向けての心構えができたような気がします。最後に、わたしと同じように将来親の介護に向き合う皆さんにメッセージをお願いします。日頃相談を受けていて、「介護は家族でするべき」という考え方って相当根強いなと思うんです。「家族が介護しなきゃいけない」というある種の呪縛のようなものを、うちの法人では「親孝行の呪い」と呼んだりするんですけど、この呪いを解くのは相当難しいことだなと実感しています。ただ、日本は劇的に少子高齢化が進んでいて、わたしが生まれた1980年は高齢者1人を支える現役世代の人数は7.4人だったのに、2014年の時点ですでに2.4人になっています。少子高齢化がこれだけハイスピードで進んでいて、こういったいびつな人口構造になっているにもかかわらず、昔の介護のイメージのままでいるのはおかしいですよね。家族介護が当たり前という世の中のままでは、子ども世代が疲弊してしまうのは目に見えています。しかも、2000年に介護保険がスタートして、家庭の中だけでやっていた介護を社会全体で支えていきましょうという仕組みができたにもかかわらず、でもやっぱり家族介護が基本になっています。「家族で介護して、できないところを誰かに頼む」っていうところまでにしか至っていないのが現状です。しかし、ここまでお話しした通り、子どもが親を介護することが親孝行につながるわけではありません。家族は良き介護人である必要はないし、介護のプロにお願いしたほうが親も子も安心して介護に向き合うことができる。介護は本来そうあるべきなんだということをぜひ知ってもらいたいですね。わたしも親が元気なうちに親と将来について語り、適切な距離感で介護に向き合う準備をすすめていきたいと思います。川内さん、お話をお聞かせいただきありがとうございました!