実家の片づけをするときに気をつけていたこと——そもそもKさんが実家を片づけることになったのはどんなきっかけがあったんですか?父の介護が始まってしばらくしてから、母と「介護中ではあるけれども、暮らしやすくなるように少しずつ家を片づけていこうね」という話をしました。でも、そうやって片づけを始めたものの、だんだんと父の介護の負担が増え、母が精神的にも体力的にも片づけどころではなくなってしまったんです。そこで、私が母のサポートと父の介護を手伝いながら、できる範囲のことで家の中を整理していました。たとえば、リハビリや訪問看護の方が働きやすく、父の介護がしやすいように周辺を整える、といったようなことですね。そんな中で父が亡くなり、遺品整理も兼ねて本格的に実家の片づけをするようになりました。ひと段落するまでには10カ月以上かかっています。とはいえ、まだ片づけが終わったわけではなく、母の様子を見ながら一緒に進めている状況です。——実家の片づけで気をつけていたことはありますか?無理に片づけを進めないこと、とにかく母の話を聞くこと。この2つを大切にしています。母と話しながら、実家を片づけることは大事なことなんだということを納得してもらうようにしていました。納得してもらったうえで、片づけを進めていた感じですね。——実家の片づけが大事であることを親に納得してもらうために話していると、“説得”になりがちですよね。その辺はいかがでしたか?そこの境界線は難しいですね。でも無理に納得させるようなことはしていません。「自分の人生において今後使うことはないんだな」と納得してもらえるようにしています。たとえば、私は片づけの仕事をしているので、常日頃から母に片づけの話をしているんですね。「お客様の家でこんなことがあったよ」とか「自宅の片づけや生前整理でこんなことをしたよ」とか……。とにかく親に片づけの効果を話していたので納得してもらえたのもあるのかなと思います。おかげで親が「自分もそうありたいな」と思ってくれるようになりました。あとは親があるテレビ番組を観て気づいてくれたことがあるんです。「親が亡くなったときに、実家を片づけるために押入れを見たらもう空っぽの状態になっていて、片づけるモノがほとんどなかった」という内容だったんですよね。そのときに「実家の片づけで子どもに大変な思いをさせちゃいけないって気づいた」と言っていました。第三者の経験のほうが、娘の私が話すよりも納得しやすいですよね。——ほかにも親が片づけをすることに納得できたエピソードがあれば教えてください。実家には大きな食器棚があって、父の介護中にキッチンをリフォームすることになったんです。そのときに、食器棚をなくせばキッチンが広く使えていいんじゃないかと思って、大量の食器を娘と私で整理しました。食器をすべて出したところを母が見たときに「こんなにすごい量があるなんて思わなかったわ。やっぱり片づけたほうがいいわね」と言って、片づけに納得してもらえたんです。それ以来、食器も調理道具もほとんど使っていなかったモノは、母の判断でポイポイと処分できました。あと、納得してもらうとはちょっと違うかもしれませんが、毎回「大丈夫!捨てないからね」と母に声かけしています。モノを整理しているときは「残したいモノはちゃんと取っておいてあるからね」とも伝えるようにしているんです。こうやって母に安心してもらうのも、実家の片づけを進めるうえでは大事なことですね。親にとって大切なモノは寄り添ってみないとわからない——Kさんだけでなく、家族の方も一緒に実家を片づけたんですか?はい、娘にも一緒にやってもらいました。そのせいか母は、娘の私ではなくて「孫が片づけてくれた」っていうんです。でも、そういう認識でもいいかなと思っています。みんなの力を使って実家を片づけたっていうのが、すごく大事なので。2人の弟にも協力してもらいました。弟がいると頼りになったし、私の話も聞いてもらえたので、その点もよかったですね。私ひとりで実家を片づけたわけじゃなく、みんなにも協力してもらえたっていうのは大きいかな。——食器を整理したあとのお母様の反応はどうでしたか?母も「食器棚の中身がスッキリしてよかった」と話していました。ただ、この話には後日談があるんですよ。食器を整理してスッキリしたので「食器棚を処分しない?」と母に提案したんですね。そうしたら母に大反対されてしまって……。そこで知ったのは、母は食器が好きだと思っていたけれども、それ以上に母にとって大事なのは食器棚だということ。食器棚こそ捨ててはいけないモノだったんです。これは母に寄り添って話を聞いてはじめてわかったことでした。こんなふうに母の話を聞いたり、一緒に行動したりして、母と向き合ってみて知ったことがたくさんあります。実はそれが私自身の「心の生前整理」になっているんですよね。——片づけのプロではあっても、子どもとしてコミュニケーションを取ったほうが実家の片づけはうまくいくんですね。そう思います。実家の片づけは、親に納得してもらってから進めていくほうがうまくいくんじゃないでしょうか。また、親子にしかわからない思い出話をしながら片づけていくことは、親にとっても子どもにとっても心の生前整理につながります。もちろん、家族の協力も大事ですね。「みんなで実家を片づけた!」という意識が、家族の絆をより深めていくような気がします。第13回は、引き続きKさんに「生前整理アドバイザーが実際に実家を片づけた話」をうかがいます。