「親ってこんな字だったな」手書きのノートが自分の宝物になる――実際に『大人になってからの家族の交換ノート』を使った方からはどんな反響がありましたか。(左から)三和物産株式会社 稲垣水月さん、若林敦さん稲垣さん:「普段話せないようなセンシティブで深い話ができた」という感想を多くいただいています。あと、自身の父親と使ってくれた方が、子どもの頃の話や母親の前ではちょっと聞きづらい過去の恋愛の話などを交わして「小学生の頃の父親のモテ具合が知れて楽しかったです」といった話も聞きました。父親が自分のことをどう思っているのかも詳しく書いてもらえたそうで、「相互理解が深められた」って言っていましたね。 ――「こんな使い方があったのか!」と意外なノートの使われ方はありましたか?稲垣さん:このノートは、子ども世代が30~40代、親世代が50~60代の想定で作ったのですが、20代の方や、70代の方からの反響もいただきました。40代の女性が自身の親と使うつもりで買ったら、高校生の娘が「ママと交換ノートしたい」と言って交換し始めたという方もいました。娘さんがちょうど反抗期だったということもあって「ノートの中で話し合えてとても良かった」と言ってもらえて、そういう使い方もあったんだと思いましたね。――今は親とLINEなどでもやりとりできるのに、ノートでやりとりしたいという人も少なくないんですね。稲垣さん:私自身、LINEでのやりとりが苦手で、些細な相談でもLINEでしてもいいものか迷ってしまうところがあるんです。でも、こういうノートだったら、急ぎの用事を記すわけじゃないし、相手がいつ読んでもいい。お互いにあまり忙しくないときにやりとりできるのが、LINEなどとは違った良い部分なのかなと感じています。あと、親の書く字を見られるのも結構大事だなと思うんですよね。子どものときに節目ごとにもらった親からの手紙の字と、久しぶりに見ても全然変わってないなと感じたり知れたりできるのもいいんですよね。字は変わってなくても、なんとなく文字から年齢を重ねているところを感じ取れたりもしますし。 若林さん:こういう時代ですからデータでいいじゃないかという人もいますが、直筆の字で残すことで昔のアルバムを見るように、自分だけの宝物として手元にノートを置いておける。そういった意味でもノートに書く価値はあると思いますね。――お二人も実際に親御さんとノートをやりとりされたのでしょうか?若林さん:僕は、前編でもお話しした通り、妻と義母に使ってもらいました。もともと二人は仲が良くて、ちょくちょくビデオ電話などもしているんですが、ノートは意外と空欄が多かったんですよね。「親子仲が良好でも書くのは恥ずかしいのかな」というのは、新たな発見でした。稲垣さん:ラフの段階から母とやりとりしていました。やって良かったと思えたのは、ノートの中で母から過去のことで「ごめんね」と謝られたページがあったことです。私はそれを全然気にしていなかったので、母に直接「大丈夫だよ」と言えたことが、後から考えれば親孝行になったのではないかと思います。親って、こちらは何とも思っていないことでも、すごく悪く思っていたり感じていたりするんですね。逆もしかりで「なんでだよ」と思うこともありますが、ノートがなかったら分からなかったことだなと感じました。ノートをやりとりしたことで、親とのコミュニケーションは増えましたね。離れて暮らすと「話したい」と思ったときのハードルが高くなりますが、ノートを通じて親と話せるようになりましたし、以前はためらってしまっていた些細なLINE連絡や電話も遠慮なくできるようになったと思います。書くたび、読むたびに「やりとりしてよかった」と思える――このノートを使っていただく皆さんに、どんな変化や効果を感じてほしいですか? 若林さん:親子の仲が良い人はより仲良くなるように、親子での会話が足りていない人は話すきっかけになればいいなと思いますね。僕自身、ノートをやりとりできるくらい父が元気でちゃんとコミュニケーションがとれる間にノートをやりとりしたかったなと思うんです。父の生い立ち、どういう人生を歩んで、母とどう出会って僕が生まれたのか。それを知ることができていたなら「父もこういう経験をしてきたんだ」という安心感を得られたり、落ち込んだ時には見返して発奮できたりしたのではないかーー。そんな後悔をしている僕みたいな人がひとりでも減ったらいいなと思いますね。――ノートをやりとりするおすすめのタイミングや使い方はありますか?稲垣さん:親への贈り物のおまけにしたり、先に自分が書いておいて手紙のように渡したりするのもおすすめですね。なかには、就職して実家を出るタイミングでノートを書き始めたという方もいます。「家を離れる前に親と話しておきたいけど、直接話すのは恥ずかしいのでノートでやりとりすることにした」とのことでした。ほかにも結婚など、人生が大きく変わるタイミングで始めるのもいいと思います。始めるときは少し勇気がいるかもしれませんが、何回か使えば慣れてきます。書くたび、読むたびに「やりとりしてよかった」という気持ちになるので、ぜひ皆さんに使ってみてほしいです。「1年後も元気とは限らない」だからこそ今のうちに親とやりとりしよう――大人になってから親子がコミュニケーションを深めることの意義について、お二人はどう考えていますか。稲垣さん:子どものころと大人になってからでは、親子関係に異なる部分がありますよね。改めてコミュニケーションを取ることでギャップが埋まり、大人同士の親子関係へシフトできるのではないかと思います。それは親だけじゃなく自分のためにもなるので、まずはそのギャップを埋めることが、後のコミュニケーションを深める意義なのかなと思います。若林さん:子どものころは一番身近な大人が親だからすごく大きく感じていても、自分が成長すると親が小さく見えることもありますよね。「親も一人の人間なんだ」とわかると、コミュニケーションのとり方も自然と変化が生まれます。その中で親子関係も更新できていけたらいいのかなと思いますね。――最後に、親が元気なうちに話をしておくことの大切さについてうかがいたいです。稲垣さん:親が元気なときとそうじゃなくなってから話す話は、同じ話題でも違う印象になると思います。「昔、あそこに遊びに行ったよね」という思い出話でも、元気な時なら「じゃあまた行こうか」となるかもしれないけど、体が弱っていたりしたら「ああもう行けないんだ」と切なく聞こえてしまうかもしれない。ですから、元気じゃないと話せない内容を元気なうちに親に聞いておくのってすごく大切なんじゃないかなと思うんです。そんなときに、このノートが手助けになってくれたらうれしいです。若林さん:もしかしたら、親が明日腰を悪くして歩けなくなってしまうかもしれないですよね。つまり、“親が元気なうちに”とは“スピード感”が欠かせないと思うんです。僕も父がガンだと宣告されて手術したけれど、結局1年もちませんでした。1年後も元気だろうと思うのではなくて、できることは今のうちに、思い立ったらすぐにやっておいた方がいいと思っています。エンディングノートだと、親からの一方的なメッセージを受け取るだけになりがちです。でも、『大人になってからの家族の交換ノート』であれば、親子でやりとりができるため、親の考えを理解するだけでなく、自分自身の気持ちや想いを親に伝えることもできます。親が抱く自分への想いを知り、同時に親がこれからどのように生きたいのかを理解する。そのために、親が元気なうちからコミュニケーションを重ねることの大切さを、今回の取材を通して改めて感じました。ただ、実は私自身、まだこのノートを親とやりとりできていません……!お二人にお話をうかがって、さっそく親とノートを交わしてみたいと思いました。稲垣さん、若林さん、貴重なお話をありがとうございました。★『大人になってからの家族の交換ノート』について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。取材:大井あゆみ(実家のこと。編集長)文:西沢裕子