「死」というテーマに寄り添うサービスを立ち上げた理由――まず、岩﨑さんが「おくやみなび」を立ち上げたきっかけから教えていただきたいです。前職で働いていた2023年に、自分が脳の病気を患っていることがわかったのがきっかけです。もしものことを考え、資産や子育てに関する希望を整理し、こっそり紙に書き留めました。ただ、それを家族に見られるのは嫌だったので、自宅には置きたくなかったんです。そのうえ、状況が変わるたびにその紙を処分して新しく書き直さないといけない。それが手間だなと思ったんです。そのとき、「死」というタブー視されがちなテーマに寄り添うITサービスがまだ少ないと気づき、この分野で起業しようと決意しました。――なるほど。そこから「おくやみなび」の構想につながっていったんですね。はい。そこでまず、身近な人たちに話を聞いてみたんです。すると、大切な人を亡くした際、多くの人が手続きに追われ、故人を偲ぶ時間が持てなかったという声が多くありました。そういった手続きをもっとシンプルにして負担を減らすことで、故人を想う時間をつくってあげたい——そこから「親が亡くなった後の手続きを簡単に、そして安心して進められるサービスを提供したい」という想いが芽生えました。――確かに私の祖母が亡くなったときも、直後からさまざまな手続きが発生して、ゆっくり悲しむ時間が無かったような記憶があります。そうですよね。心の整理がつかないまま、慌ただしく手続きをしなければならず、休みを取って対応する人も多い。それに追われて疲弊する人も少なくないんですよね。でも、そういう人たちに寄り添うサービスってあまりないんです。だからこそ「おくやみなび」を立ち上げました。――それに、例えば親が亡くなった後に何をすればいいのか、事前に知っている人は少ないのではないでしょうか。そうなんです。ただ、一般的には葬儀社がチェックリストを提供し、必要な手続きを案内してくれるので、それに従えばある程度スムーズに進められます。ただ、役所の手続きに関する情報ばかり書かれていて、もっと大事なことが書かれていないんですよね。――大事なこと、とは?「人間関係」ですね。例えば、友人がすごく多い人が亡くなった場合、その人たちにどうやって知らせるべきか、逆に知らせない方がいい人は誰か——そうした判断を、遺族は親の気持ちが分からないまま進めなければなりません。感情の整理がつかないままに、こうした大事な意思決定を「これでいいのか」と不安を抱えながら進めていかないといけないんです。――確かに、事前に親から聞いていたり、遺言書やエンディングノートなどがあったりしない限り、自分で情報を集めて判断しなければなりませんね。そうなんです。あと、お葬式までは家族や親戚のサポートを受けながら進めることができるのですが、その後の手続きは基本的に一人で進めなければなりません。孤独な作業が始まるんです。ぜんぜん気持ちが休まらないし、整理がつかない。これだとどんな人でも疲弊してしまいます。――こうした課題をふまえて「おくやみなび」を立ち上げたんですね。はい。なので、「何をすればいいのかを明確にするITの機能」だけでなく、「人のサポートを提供し、感情に寄り添う」ことも大切にしています。会社のビジョンとしても「人を思う気持ちをインターネットでサポートする」と掲げているほど、重要な価値観です。ITの機能で単に煩雑な手続きを効率化するだけでなく、整理がつかない遺族の気持ちにも寄り添うサービスでありたいと考えています。大切な人を亡くした人が求めるサービスをつくるために――「おくやみなび」はどのように開発を進めていったんですか。まず、大切な人を亡くした直後の方にお話を聞くことから始めました。しかし、当然ながら、そうした状況の方に話を聞くのは難しく……。それでも、協力を申し出てくださった方々から、実際の困りごとや苦労を聞きながら、サービスの形を作り上げました。また、多くの方が私たちの想いに共感し、協力してくださいました。その過程で、「自分たちが考えていたニーズ」と「実際のユーザーが求めているもの」にギャップがあることも学びました。大切な人を亡くしたときに経験した心の痛みや課題感は大きいんだなということも、改めて実感しましたね。――実際にリリースしてからの反響はいかがですか。リリース直後のため、まだ多くの反響は得られていませんが、意外だったのは平日の日中に問い合わせが多いことでした。我々は、日中は忙しく、夜や休日に手続きを進める人が多いと想定していました。訃報を受けたらすぐに葬式の準備に追われるから、落ち着く間もない人が多いからです。でも、もしかしたら、葬儀の手配を終えた後、ふと時間ができたときにどう過ごせばいいか分からず、呆然としているという人が実際は多いのかもしれません。そういうときに「おくやみなび」がお役に立てる存在になれるのではないかと思いましたね。――お葬式が終わった後、次にやるべきことを考え始めるタイミングなのかもしれないですね。はい。また、50〜60代の女性からのお問い合わせが多いのも印象的ですね。男性がバリバリ働いていて、家庭を守るのは女性の役目というのが当たり前とされていた世代なのか、夫の親が亡くなった場合でも、妻が夫の代わりに手続き対応するというケースが多いように思います。世代の問題というよりも、世間体の問題かもしれませんけどね。こういった負担が女性に偏りがちな現状を踏まえ、より使いやすいサービスにしていきたいとも考えています。遺族の気持ちに寄り添えるサービスを目指したい――今後「おくやみなび」はどのように展開していきたいと考えていますか。より多くのご家族が手続きをスムーズに進められるよう、さらなる機能の拡充とサービス改善を予定しています。今後は地方自治体や専門家との連携を強化し、手続きをオンラインで完結する仕組みの導入も視野に入れています。さらに遺族の不安や悩みにも安心して向き合えるよう、心理的サポートや専門家ネットワークの拡充にも取り組んでいきたいです。例えば、親が亡くなったときと、パートナーや子どもが亡くなったときでは、遺族の気持ちは異なります。でも、現状、どういうケースであっても遺族に対するサポートはほとんど同じです。そうではなく、できるかぎり遺族一人ひとりの気持ちに寄り添えるサービスでありたいと考えています。遺された人たちが大切な人の死と向き合う時間を守るサービスへと進化させ、「頼れる存在」として認識されることを目指しています。後編では、終活や死後のことなど親と話しづらいことをどう切り出せばいいか、引き続き岩﨑さんにお話をうかがいます。取材協力:株式会社 OurPlan「おくやみなび」のほか、身元保証が必要な高齢者や家族、支援者が信頼できる身元保証事業者を無料で検索・比較し、自分に合った保証サービスを見つけられるWebプラットフォーム「身元保証のけんさく」も運営。