相続における遺留分とは?――小池先生、相続について調べていたときに「遺留分」という言葉が出てきました。遺留分とは何か教えていただきたいです。「遺留分」とは、簡単にいうと、被相続人の配偶者、子ども、両親であれば、法律上、被相続人の遺産から取得することが認められている最低限の取り分のことですね。――ということは、例えば、遺言書に「家族の誰か1人に全財産を相続させる」と書いてあっても、法定相続人であれば遺留分が認められる、ということですか……?そうです。そもそも相続には、被相続人の財産を次の世代に承継することで生活を保障していくという側面があります。ただし、ここで注意してほしいのは、被相続人の兄弟姉妹は法定相続人に当たりますが、遺留分は認められていないという点です。例えば、父、母、子ども2人という家族構成で父が亡くなり、遺言書には「1人の子どもに全財産を相続させる」と書いてあった場合。母親ともう1人の子どもが、これまで父親に生活を頼っていたとなると、今後どうやって生活をしていくのかという問題が生じますよね。つまり、生活を保障するという観点から、「最低限のものは保障してあげましょう」というのが、遺留分なのです。――「家族以外の人に全財産を相続させる」と書いてあるケースでも、遺留分が認められるのですか。そのようなケースでも、遺留分が認められます。――先程、兄弟姉妹には遺留分が認められないとおっしゃっていましたが、それはどうしてなのでしょうか。相続には「次世代に財産をつなげていく」という目的があるからですね。その観点だと、兄弟姉妹は意味合いが少し離れているといえます。一般的に、兄弟姉妹の生活の面倒まで見るというケースは少ないですよね。遺留分制度は最低限の生活を保障するという側面があるため、兄弟姉妹にまで遺留分を認めなくてもよいとしているのです。――遺留分を認められている相続人は、それぞれどのくらいの割合の財産を受け取ることができるのでしょうか。基本的には、法定相続分の2分の1が遺留分の割合です。ケースとしてはあまり多くないのですが、例えば、独身の子どもが亡くなり、両親が存命していて、遺言書に「母に全財産を相続させる」と書いていた場合、父親には3分の1の割合が遺留分として認められます。相続人が親だけの場合は、割合がちょっと違うんです。――ただ、亡くなった被相続人としては「なぜこの人たちにも財産を分けなければいけないんだ」という気持ちになるのではないかと思うのですが、そういったことが問題になるケースはないのでしょうか。ありますね。典型的な例としては、遺言書が、法律で認められている遺留分を侵害している場合です。例えば、両親と子ども2人の家族で、亡くなった方の財産が1億円だった場合。財産の2分の1である5000万円が遺留分となります。つまり、5000万円以上を他者に遺贈されたとなると遺留分の侵害となるのです。特に「全財産を1人に渡したい」という場合は、比較的よくもめますね。子どもが2人いて、1人は全く見舞いに来なかったけど、もう1人は献身的な介護をしていたときに、「面倒をみてくれた子に全財産を渡す」というのは、あるあるですね。他に、会社を経営している場合。子どもの後継者になることを条件に自社株を子どもに遺したいとして、その株の価値が高い場合に遺留分を侵害してしまうというケースもありますね。あとは不動産。不動産は価値が高いので、不動産と預貯金しかない場合に、不動産の評価額が高すぎて遺留分を侵害してしまうことがありますね。不動産の価値が高くて、預貯金が少ない場合は、かなり大変です。――なるほど。負債も遺留分侵害額請求をする際に考慮されるのでしょうか。基本的に「全財産を相続させる」という遺言を書いたときには、プラスの財産もマイナスの負債も全て引き継ぐことになります。でも、マイナスの負債がプラスの財産を超えている場合には、相続人の負担がものすごく大きいじゃないですか。なので、そこは控除していい、と法律で定められています。――ちなみに、遺留分侵害額請求をする期限は決まっているのでしょうか。まず「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知った日から1年以内」という期限があります。ここで注意して欲しいのは、「相続開始(被相続人が亡くなった日)から1年以内」ではないという点ですね。あと「相続開始から10年以内」という期限もあります。10年が経過すると、遺留分侵害額請求をする権利が消滅してしまうんです。遺言を見つけて、遺留分侵害額請求をできることはわかってはいたけど後回しにしてしまって、相談に来た時には期限までのこりわずかだったみたいなケースも、たまにありますね。ただ、注意してほしいのは、「自分は財産を一切受け取らない」という内容の遺産分割協議を交わした後に、気が変わって、やっぱり遺留分侵害額請求をするということは、原則としてできないという点です。一度、「遺産を受け取らない」ということを認めていますからね。――遺留分侵害額請求を行使するときは、どういう手順で進めるのでしょうか。少なくとも弁護士が介入する場合は、遺留分を侵害した人に対して内容証明郵便を送ります。――例えば、遺言書を確認した人が「あなたには遺留分があります」と伝えることはあるのでしょうか。財産をもらった人が、遺留分について知らせるケースはまずないです。なので、遺留分を請求するのであれば、何が財産なのかをきちんと開示してもらって、被相続人の財産や債務を確認して、遺留分を計算すると良いと思います。相続人同士で意見が対立していると、開示してくれないなんてこともありますけどね。そのため、兄弟姉妹以外の相続人には最低限保障されている遺留分があることくらいは知っておかないと、いつの間にか期限の10年が経っちゃったなんてケースもあると思います。――遺言書を書いた人が「全財産を渡すって書いてあるけど遺留分はあるから安心してね」って、わざわざ言うこともあまりないですよね?一概には言えないですけど、普通は遺言書を書いていることすら知らないケースがほとんどですからね。ふたを開けてみて「お父さんはこんなことを書いていたのか」ということになることが多いですから。遺留分の話からは若干逸れてしまいますが、例えば父が母に全財産を相続させると遺言を書いていたとしても、母と子どもが遺言書に従う義務はありません。「お父さんはお母さんに全財産を相続させると書いていたけど、お母さんが2分の1で、子ども2人で4分の1ずつ分けようよ」と話し合って合意すれば、それが有効になります。遺言書の効力はあるけれど、相続人同士で遺産分割協議をして遺言の内容とは別の内容で合意できれば問題ありません。その場合、遺言書の内容は関係なくなるので、当然遺留分の話題も出てこないですよね。――そうなると、やはり残された家族が、相続についてどう考えるかということが大事なんですね。そうなんです。特に、生前にどのくらい家族同士でコミュニケーションをとっていたかがすごく大事だと思いますね。もちろん、家族の仲が悪くなくても、相続の進め方がよくわからないからと相談に来る方もいます。でも、仲が悪くないのなら、いきなり弁護士が介入するよりも、事前にちょっと遺留分について家族同士で話してしてみたらいいと思いますね。案外スムーズに遺産分割ができて、結果的に遺留分以上の財産をもらえたみたいなケースもありますよ。今回お話をうかがってみて、「遺留分」は相続において重要な権利だということがよく分かりました。親から相続される子ども自身は自分の権利を守るためにも、遺留分についてしっかりと理解しておくことが大切です。相続する側の親御さんたちも、遺留分を念頭に置いたうえで相続について考えておく必要があるでしょう。次回も、引き続き小池先生に遺留分についてうかがいます。特に、預金がない場合の遺留分について語っていただきましたので、次回もぜひ読んでください。 取材:大井あゆみ(実家のこと。編集長)文:優花子取材協力:弁護士法人 ENISHI