「おばあちゃん家がなくなった」――2023年の5月に引き渡しを迎えられました。当日はーー実際に実家を引き渡す日はどんな気持ちでしたか?正直、感傷に浸る余裕もないくらい、バタバタでした。前日まで物が残っていて、引き渡しギリギリまで詰め込んで。なんとか中の写真も撮れましたが、もう少し遅れていたらそれもできなかったと思います。一度引き渡してしまったら、中はもう撮れないですしね。――引き渡しの後、実家を見に行くことはありましたか?一度母と近くに行く用事があったので、そのときに寄りました。外壁の一部が塗り替わっていたり、庭にあった石がなくなって畑のようになったりしているのが確認できました。でも、買い主さんには会っていません。向こうも気を遣うでしょうから、私たちも遠巻きに見た程度なんです。――妹さんは、売却が決まった後に一度帰られたとのことでしたが、感傷に浸ったりされたんでしょうか。どうなんでしょう。妹も私もそうなんですが、父親と一緒に暮らすのが嫌で早くに実家を出ちゃったんです。もちろん帰省はしていたんですが、そこまですごく居心地の良い実家というわけではなかった。だから実家がなくなるのが寂しいというようなことは、聞いていなかったですね。上の妹のところの甥っ子は、「おばあちゃん家がなくなった」ってショックを受けていましたね。母が賃貸を借りて近くに住みだしてから、「あの家はどうなったの?」という話になって、「もう売っちゃったよ」と説明したら「えっ……」と。なんでおばあちゃんが近くに来たのかを、あまり理解できていなかったみたいです。自分もそうですが、おじいちゃん家おばあちゃん家って、心に残っているじゃないですか。そういう場所がなくなったのはかわいそうかもしれませんね。――お父さまのお墓はどうされているんですか?先祖代々のお墓はなく、親がクリスチャンだったので、通っていた教会にある集合のお墓に骨の一部を入れさせていただいています。他の大部分は、亡くなった翌年に沖縄の海に散骨してきました。最近、散骨ってよく聞くようになりましたよね。父は昔、沖縄でダイビングをやっていたし、「沖縄にまいたらうれしいんじゃない?」という話になり、一応家族の思い出もある海に散骨してあげようという感じでした。驚かれる人もいるかもしれませんが、我が家はもともと実家があった場所に代々住んでいないので思い入れが少ないし、核家族だし、親も長男・長女ではないので受け継ぐものはなく、結構身軽な家なんですよね。実家を手放して、考えなければならないことが減った――お母さまは引き渡しのあと、一度妹さんの家に滞在されたんですよね。はい。都内の妹のところにいったん身を寄せて、1か月ぐらいかけて賃貸を探しました。最初は神奈川にある私の家の近所で探すつもりだったんです。でも、妹が「私の家の近くに住まない?」と提案してきました。というのも、甥っ子が当時小学2年生くらいでまだ手がかかる時期だったので、ちょっとでも見てくれる人がほしかったんです。母ももともと東京に対して強い憧れがあったので、家賃はちょっと高くなるかもしれませんが、私も賛成しました。――お母さまと同居する話は出なかったんですか。出なかったですね。性格が合わないってわかってるから(笑)。今は月に1回、会うか会わないかぐらいの関係です。気づけば1週間以上連絡を取っていなかった、なんてことも。私は夫や子どもがいますが、母はひとりなので、寂しいときはあるかもしれませんね。一応2番目の妹とは、甥っ子の面倒を見る関係で交流はあるようです。一方で、実家が残っていることによる負担はなくなりましたね。車のガソリン代やストーブの灯油代がかかるとか、家のメンテナンスが必要だとか、いろいろ聞かされていたのがなくなったので。母本人も、考えることが減っただろうと思います。――お母さまの今後のこと、例えば介護や老後のことについては、もう話し合われていますか?実は、ちゃんとは話せていないんです。「お金がいくらかかるよ」というような話はまだしづらいし、現実から逃げたい心理もあって。ただ距離も近くなって、夜中に連絡が来ても対応できるようになったので、離れているがゆえの心配はなくなりましたね。――ひとまずは実家の件が落ち着いて、ひと安心という段階ですね。いま実家じまいを考えている人たちに、何か伝えたいことはありますか?まずは親と会って話すことからかなと思います。親が「嫌だ」と思っているうちはなかなか進みませんが、「私はここに住んでいればいいわ」と言いながら、実はそう思っていないケースもある。対面で話してみると、そういう話が進む可能性があるんじゃないかなと思いますね。といっても、いきなり実家を売るのかどうかという話をするわけではありません。「片づけが大変で」「家のあちこちが壊れちゃって」と言ってきたときに「大変だね」と流すのではなく、「そうなんだ、じゃあどうする?お母さんはどうしたい?」と親の気持ちを聞いてみる。その上で「ここに住み続けたい」と言うのであれば、じゃあ家のメンテナンスをどうするか、という話になってきますよね。子どもだけで勝手に進められるものではないので、とりあえず方向性を決めるためにも、まずは話してみることかなと思います。――しかも親の体が動くうち、気力があるうちに話してみることが大事、ってことですね。体もそうですし、認知症になってしまったら話し合うのも難しいです。少なくともその前に本人の意思を確認しておきたいですよね。できれば関係者全員が関われればいいけど、うちみたいにうまくやれない家もあると思います。引っ越すにしろ住み続けるにしろ、親だけではできないから、子どもがそれをサポートしてあげられたら良いですよね。こういうことって、みんないざというときが来てから動くと思うんですが、そうなる前にやってもいいんじゃないかと思うんです。「そんな方法もあるんだ」と思ってもらって、少しでも気が楽になる人が増えたらうれしいですね。全3回にわたってお届けした、たびねこ家さんの実家じまいの記録。片づけから始まった数年のプロセスは、家を手放すだけでなく、家族との関係を見つめ直す時間でもありました。「いつか考えなきゃ」と思っているなら、まずは親と暮らしについて話すことから。“実家じまい”は、親との対話から静かに動き出すのかもしれません。たびねこ家さん、お話を聞かせていただきありがとうございました!★たびねこ家さんが出版されたKindle本もぜひお読みください。