「しばらく親と顔を合わせていなかったり、電話で話せていなかったりすることは、決して珍しくはないでしょう。それでも、何かの拍子に『元気にしているかな』と親の身を案じるのは、胸の内に親孝行したいという気持ちがあることの証しに違いありません」(『親への小さな恩返し100リスト』「はじめに」2ページより)今回ご紹介したい本は、田中 克典著『親への小さな恩返し100リスト』(主婦と生活社)。著者は40年以上に渡って福祉の仕事に携わり、介護の現場で実務を経験し、約500人の高齢者と、その家族たちをサポートしてきました。本書では、後期高齢者となる75歳前後の親世代と、働き盛りの40代から50代の子の世代を念頭に、子から親へのさまざまな関わり方の事例を紹介しています。 すぐ簡単にできそうなことから、お金や健康の管理、防災・防犯対策まで。長年、あらゆる家族の形を見てきた著書だからこそ伝えることのできる、親の世代が“本当は求めている”恩返しのアイデアです。正直「え、こんなことでいいの?」と思えるようなことも……! ここでは比較的簡単に実践しやすそうな“恩返しリスト”について紹介していきましょう。親が日常生活を快適にするために、できること親のために何かしようと考えて「旅行に連れて行ってあげる」「欲しがっているちょっといいものをプレゼントしてあげる」ことを思い浮かべる人も多いのでは。でももっと簡単にできて、親も喜んでくれることがあるはず。 例えば握力が弱ってきた親のために「ペットボトルオープナーをキッチンに置いておく」や、耳が遠くなってきた親に「テレビスピーカーを設置してあげる」などが挙げられています。 「身体機能の衰えとともに、親の毎日の生活動作には、“不便”が生じてくると思ってください。そして、不便を解消する手助けをして、“快適”な生活を一日でも長く続けられるようにしてあげるのが子にできる恩返しです」(『親への小さな恩返し100リスト』89ページより) 高価で非日常な旅行に一緒に行くこともいいけれど、日常生活を快適にするためにできる些細なことも忘れてはいけません。そのような小さな気づかいこそが、離れて暮らす親を喜ばせてあげられることの第一歩となるかもしれません。帰省時にしてあげると喜ばれること正月や夏休みなど、年に数回しか帰省できていないという人も多いでしょう。普段は電話だけで済ませてしまっている人にとっても、帰省は親の普段の生活状態を把握するチャンスでもあります。そんなときは「親の手が届かない場所の掃除をする」「トイレをすみずみまで掃除する」「一緒に墓参りに行く」などがすぐに行動に移せそうな事例として挙げられています。年をとればとるほど手の届かない場所は増えるし、トイレの汚れに気づきづらくなることは、老化のサインだとも言えるのだそう。 「息子や娘から『お墓参りに行こう』と誘われれば、親は『自分が死んだ後もこの子は大事にしてくれる』と感じるはずです」(『親への小さな恩返し100リスト』58ページより)普段から電話などでコミュニケーションをすることはもちろん大切ですが、対面で過ごしているからこそできることに時間を掛けるように意識すると良いかもしれません。親の身体と財産を守るためにできること 最後は昨今の犯罪事情や、介護の経験・知識として知っておきたいこと。いざトラブルに巻き込まれたりしてからでは遅いこともあります。知っておいて損はないポイントを学びましょう。例えば高齢者の多くが狙われる、古典的なオレオレ詐欺。絶対に自分は大丈夫と思っていても、いざとなると冷静に判断できなくなってしまうもの。そんなときのために「実家の固定電話を防犯機能付き電話に交換する」や「電話の際の本人確認の合言葉を決めておく」などは有効な対策だといえそうです。他にももっとも身近に潜む危険と言われる「転倒」防止対策のためにできること。例えば「電源コードを固定する」「じゅうたんやカーペットのめくれを固定する」など。通常は危なくないものであるほど、注意は向きづらいのだといいます。 「大事なのは早めに手を打つということ。『転ばぬ先の杖』という諺の通りで、親が転倒してしまってからでは遅いと思ってください」(『親への小さな恩返し100リスト』28ページより) ほんの数事例の紹介ですが「これなら親のためにもなり、今すぐできそうだ」と思えることも多かったのではないでしょうか。 「わが子からの恩返しによって、生活の快適さを味わい、人生の豊かさをかみしめれば、親も感謝の念を抱くはずです。そして、『いつまでも元気でがんばろう』という意欲や気力を呼び起こすことでしょう。それは、恩返しに対する最大級の報酬です。(『親への小さな恩返し100リスト』「おわりに」90ページより)何から始めれば良いといった順番はありません。目次を見て思い立ったことがあったのなら、それがきっといまの自分に「できること」。ぜひ本書を参考に、後悔しない親との付き合い方を学んでみてください。出典:主婦と生活社「実家の片づけ 親とモメない『話し方』」田中克典著(2024年12月13日発売)文:櫻井朝子