「佐賀の墓はもう継げない」と、父に伝えた——永淵先生は、ご自身でお墓の整理をされたそうですね。きっかけは何だったんですか?佐賀に実家の墓があって、父が亡くなったら自分が継ぐことになっていました。それを、あるとき「継ぐのは無理」と父に伝えたんです。東京で暮らしている以上、遠方のお墓をずっと見ていくのは難しいし、そもそも誰かも分からない遺骨が十何体も入っていて。いざとなったら誰が何をどうするのか、全然整理されていなかったんですよね。——お墓を継げないとお父さまに伝えたとき、お父さまはどういう反応でしたか。理解はしてもらえました。ただ、父自身が自分で行って墓じまいするのは難しいと言っていたので、じゃあ僕が動くしかないなと。そこで、まずはお寺に連絡をとりました。でも、なんとその住職も高齢で身動きが取れない。結果的にそのお寺自体が “お寺じまい” になることが分かりました。——お寺じまい……! そうなると、お墓はどうなるんですか。代わりに若い住職のいる近隣のお寺が面倒を見ているということで、そちらと話を進めました。でも、現地に行って「この墓です」と言えるわけじゃないんですよ。同じ名字のお墓が何基もあるんです。「どれがうちの墓なの?」というところからスタートでした。いろんな角度から墓の写真を撮ってもらって、父に見せて確認してもらって、ようやく「これだ」と突き止められました。そういう作業ひとつとっても、親が元気なうちじゃないと本当に難しいなと実感しましたね。墓じまいして散骨することに。しかし、それも簡単にはいかなかった——墓じまいはどのように進めていったんですか。今回、うちは墓に収められている遺骨をすべて散骨することにしました。お墓を別の場所に改葬するなら改葬許可証を提出するなど行政手続きが必要なのですが、散骨なら改葬許可は基本的に不要なので、手続きが少ないんです。ただ、散骨といってもどこでも好き勝手に骨をまいたら問題になるため、その土地の所有者による許可が必要です。海洋散骨は比較的自由なのですが、禁止されている海域もありますので場合によってはトラブルになることもあります。でも実際にやってみると、「気持ちの折り合い」の方が大変でしたね。——気持ちの折り合い、とはどういうことですか?散骨をお願いする業者をどう選ぶか、散骨の費用はいくらかかるか、住職や親族への説明はどうするか……そっちの方が正直大変で。閉眼供養も法律で定められてはいないけど、気持ちとしてやりたい人もいます。それに納得できるかどうかですよね。——費用の相場もさまざまだと聞いたことがあります。はい、地域や宗派、業者によってもまちまちです。「ネットで調べた価格と違う!」といってもめる話もあるみたいです。実際、閉眼供養の費用で裁判になったケースもあるそうですよ。お墓をどうするのかは “親が元気なうち” に話しておくべき——お墓の管理や墓じまいって、親族の中で意見が分かれやすいという話もよく聞きます。そうですね。でも、墓の祭祀(さいし)を継ぐ人——法律では「祭祀承継者」と言いますが——はひとり決めなきゃいけないと民法897条で定められています。被相続人、つまり親が遺言で指定していればその人になるし、慣習がある場合はそれに従う。あとは親族による話し合い。それも決まらなければ家庭裁判所で調停になります。——そんなところまで裁判所が関与するんですね。そうです。親族による話し合いで決まらない場合は、やむを得ないですね。——やはり親が元気なうちに、お墓をどうしたいのか聞いておくのが大事ということですね。墓じまいをするにしても、親がそのお墓に入りたいという意思があるなら、それを聞いたうえで判断できます。でも「行けない場所に墓を残しても仕方ない」と思うなら、改葬なり散骨なりを検討すればいい。問題は、誰も親の意思を確認していないまま、遺された人たちが決めることになるケース。これが大変です。——あと、家制度に対する考えが根強い地方と都会とでは、お墓に対する考えに違いがありそうだなとも思います。それはありますね。都会に出てきた人は「納骨堂でいい」「散骨でいい」と思っていても、田舎でずっと生活している人は「立派な墓を残すのが誇りだ」という意識が根強いこともあります。そうなると、感情的な衝突も起きやすいですよね。——親戚との関係が悪くなることを避けるためにも、親が元気なうちに話しておくことが大事ですね。そうですね。どのお墓に誰が入っているのか、そもそもどれがうちの墓なのかも含めて、親が元気なうちに聞いておくべきです。うちは本家で祭祀継承者も父だったので、墓じまいの判断がしやすかったですが、それでも大変だなと思いましたからね。墓じまいは、単に墓を処分することではなく、「家族の記憶をどう扱うか」という深いテーマにつながっていました。永淵先生の体験から見えてきたのは、法律よりも “気持ち” や “関係性” のほうが難しいという現実です。「お墓、どうする?」——その一言は、もしかしたら親の人生や家族のこれからを考える、最初の一歩になるのかもしれません。取材協力:弁護士法人 ENISHI