父はよく寝言を言う。寝るたびに寝言を発しているといっても過言ではない。ただなぜかいつも寝言で父は怒っているのだ。「〇〇で▼▼だろうが!」だの「××に決まってるだろ!」だの「■■なのがわからんのか!」など何かしらに怒っていた。よほど主張したい何かがあるのだろう。しかし聞く側も肝心なところはよくわからず、何かに怒っていたことだけは確かであった。寝言は当然、私や弟がいる隣の部屋にも聞こえてくる。「なんか聞こえへん?」「お父さんやろ」という会話が弟と交わされるのが常であった。さらに寝言は性質上、いつ発せられるかわからない警報のようなものだ。深夜にこっそりラジオを聴いている時などに発せられると、びっくりして思わずボリュームを下げてしまうこともたびたびあった。わかっているが驚くのだ。ある意味突然部屋に入られるよりも、私にとってはスリリングなものであった。そんなに腹立たしい夢なら少しは覚えていてもいいのに、父は全く覚えていないのである。どんなに言っても、「そうかあ?でも全然覚えとらん」としか答えないのだ。とぼけているわけでも、隠しているわけでもなく、本当に覚えていないのだ。あまり言及しても、「はいはい。そんなにうるさいならみんなで子ども部屋で寝てください。俺は一人で寝るけん」とすねてしまうので、これ以上寝言について本人にいうのも良くない。基本そういうところはナイーブな男なのだ。そんな警報だとか言っている寝言も、長年聞いていれば生活音レベルになる。びっくりはするものの、「あぁまたか」と、目覚まし時計の誤作動レベルになっていたのも事実である。しかし数年前に帰省した際、普段私が寝る部屋が使えなかったため、父と一緒に眠ることになった。実家という安心感と、朝早くからの移動に疲れていた私は布団に入るなり、すぐにうとうとしていた。その時である。「前から言っとるだろうが!!」突然の怒号と共に、私の夢うつつ状態は遮断された。久しぶりに耳にした父の寝言は健在であった。そして寝言のことなんてすっかり忘れていた自分にも気が付いた。ふと父を見ると、何事もないかのように寝ている。「あぁ、そうだ。今自分は実家に帰ってるんだな」と実感すると同時に、懐かしさに引き戻された瞬間であった。眠たかったので、そんな時に引き戻さなくていいよと思ったが。文・相場龍児%3Csmall%3E%E2%80%BB%E6%9C%AC%E8%A8%98%E4%BA%8B%E3%81%AF%E3%80%81%E4%BB%A5%E5%89%8D%E5%BD%93%E7%A4%BE%E3%81%8C%E9%81%8B%E5%96%B6%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%9F%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%80%8C%E3%81%8B%E3%81%8F%E3%81%8B%E3%81%9E%E3%81%8F%E3%80%8D%EF%BC%88%E7%8F%BE%E5%9C%A8%E3%81%AF%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BA%EF%BC%89%E3%81%AB%E6%8E%B2%E8%BC%89%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%82%A8%E3%83%83%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%82%92%E5%86%8D%E6%8E%B2%E8%BC%89%E3%81%97%E3%81%9F%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82%E5%BD%93%E6%99%82%E3%81%AE%E6%80%9D%E3%81%84%E3%82%92%E3%81%9D%E3%81%AE%E3%81%BE%E3%81%BE%E3%81%AB%E3%80%81%E3%80%8C%E5%AE%9F%E5%AE%B6%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%82%E3%80%8D%E3%81%A7%E5%BC%95%E3%81%8D%E7%B6%9A%E3%81%8D%E3%81%8A%E5%B1%8A%E3%81%91%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82%3C%2Fsmall%3E