相続発生から申告までのタイムライン ――実際に相続が発生したあと、どういう流れになるのでしょうか。相続税の申告は亡くなってから10か月以内、さらに故人が毎年確定申告をしていた場合は、亡くなってから4か月以内に準確定申告を行う必要があります。ただ、実際は葬儀や四十九日を済ませてからようやく動き出す方が多いため、実際には6〜7か月ほどで財産の確認から評価、分割協議、そして申告と納税までを済ませなければならないんです。財産の洗い出しは相続人自身で行わなければならないため、特に時間を取られることも多いです。通帳や郵便物、保険の引き落とし履歴など、あらゆる手がかりから財産を特定していく必要があります。近年ではネット銀行や暗号資産など、従来の方法では確認できない財産も増えており、難易度は上がっていますね。――そう考えると、スケジュール的にはかなりタイトですね。本当に時間がないと感じる方が多いですね。高齢の親を持つ子世代がすでに定年退職しているなら平日に動けますが、現役世代は仕事を抱えながら進めなければならない。特に親が莫大な財産を残して亡くなった場合、すべての財産を洗い出すだけでもかなりの時間を取られてしまうため、子どもが仕事を辞めざるを得なかったケースも実際にあるんですよね。――財産を洗い出すだけではなく、10か月以内に相続人間で分割協議もしないといけないんですよね。その通りです。そこはきょうだいや家族の関係性が大きく左右しますよね。ただ、税理士はあくまで「適切な相続税申告を行う」立場であり、誰かの肩を持つことはできません。もめそうなときこそ、家族全員が同席し、同じ情報を共有することが大切です。生前のひいきや過去のわがかまりを持ち出すと話がこじれるので、「今ある財産をどう分けるか」に集中することが解決への近道だと思いますね。――もし、申告期限に間に合わなかった場合はどうなるのでしょうか。延滞税や加算税といったペナルティが加わる可能性があります。一方で、小規模宅地等の特例や配偶者に対する相続税額の軽減といった制度は、一定の手続きをしておけば、期限後でも適用できます。制度によって扱いが異なるため、専門家に確認しながら進めることが重要です。「どこの銀行に口座があるのか」だけでも知っておくとスムーズ――相続に備えて、事前にできることはあるのでしょうか。将来の相続に向けて事前に備えておきたいと考える人も少なくないかもしれませんが、一番の問題は「亡くなった後の話をするのは嫌だ」と思う親世代が多いことでしょう。とはいえ、何も情報がない状態で子ども世代が手続きを進めるのは非常に大変です。ただ、親の財産情報をすべて詳細に把握しておく必要はありません。「どこの銀行に口座があるか」「どこの保険会社と契約しているか」など、最低限の情報だけでも残しておくと手続きが格段にスムーズになります。エンディングノートやメモの形で残すことは有効ですが、心理的なハードルが高いので、まずは日常の会話の中で「自宅のどこに通帳があるか」などを共有しておくことから始めるのが現実的かもしれません。――とはいえ、そういう会話のきっかけをつくるのも難しいですよね……。実家に帰省したときに銀行に一緒に行く、郵便物を確認するなど、小さな行動から始めることが大切です。親の世代は一人で手続きをするのが億劫になりがちなので、可能なら有給休暇などを活用して平日に付き添うのも有効かもしれません。そうすることで自然と財産情報の共有につながることもあります。――不安があるなら、早めに税理士さんに相談しに行ってもよいのでしょうか。もし相続税について税理士に相談するなら、親子そろって来ていただくのがおすすめです。親だけ、あるいは子どもだけの意見では不十分で、双方がそろって初めて正確な対応ができます。将来の相続に不安がある方は、ぜひ親子で一緒に相談にいらしてください。相続税の申告期限が10か月あると聞くと余裕があるように思えますが、実際には6〜7か月しかありません。限られた時間で財産調査から分割協議までを行うには、事前の準備と家族の協力が欠かせません。 「何も準備しないまま相続が発生したらどうなるか」をイメージし、元気なうちに親子で少しずつ話し合いを重ねていくことが、トラブルを避ける最大のポイントになるのではないでしょうか。 取材協力:税理士法人かけはし