「『親の介護』は猫にたとえちゃえばいい。ネガティブな気持ちになりがちな介護がラクになる本」(田中克典著/日本実業出版社)は、そんな発想のもとに生まれた、現役ケアマネージャーによる“新感覚”の介護本だ。全5章構成で、それぞれで猫の動作や習性、生活のさまざまな場面について紹介され、それが親の生活や介護予防に必要な場合は「見習う」、見習わないほうがいい場合は「反面教師」として解説されている。たとえば、「夏は涼しいところが好き」という特性は熱中症予防の観点から「見習う」、「動作が俊敏で極端」という特性はあわてると転んだり、特殊詐欺の被害につながったりすることから「反面教師」という具合に。取り上げるテーマも、本人の心身の健康からご近所づきあい、高齢者の住宅事情、介護を行う家族内のチームプレーなどなど非常に広範囲にわたる。これは現役ケアマネージャーとしてさまざまな場面に立ち会ってきた著者の田中さんならではの視野の広さと言えるかもしれない。ちなみに、猫にはもともと詳しかったわけではないそうで、猫の生態を調べるために複数の文献を読んだうえで「第7回ねこ検定初級」まで受験したという。また、認知症カフェに通う人の事例に登場する男性の名前が喫茶純(きっさじゅん)さん、妻の名前は茶話(さわ)さんと、ダジャレを挿し込んだクスっと笑えるような工夫が本書全体に散りばめられている。著者の田中さんはこれらをどんな顔をしながら考えていたのだろう。真面目な顔をしていたとしても、顔をほころばせていたとしても、まだ見ぬ読者への思いやりが伝わってくる。中には「ちょっと無理にこじつけすぎかも?」と思われる項目もあるが、仮に「熱中症にならないよう、夏はクーラーを22度に設定しよう」などと書かれていたとしたら、仕事や勉強のようで気が重くなる。裏表紙に「しんどい親の介護が、愛猫のお世話みたいに愛おしくなる!」という惹句が書かれているように、著者が狙った通りの本になっていると言えるだろう。こうして気持ちのハードルを乗り越えて読み進めた先には、おすすめのサービスや「すぐにできること」が書かれている。“キレイ好き”な猫の特性を「見習う」項目では、生活援助の一部として掃除をケアプランに組み込む方法が紹介されていて、「料金は、1割負担なら20分以上45分未満で179円、45分以上70分未満で220円です」などと、かなり具体的な情報が書かれていて驚いた。ほかにも「介護保険制度の全体像と利用方法」や「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」など、なにもわからない状態で手をとっても全体像がつかめ、心配ごとに早い段階で対処できるようになっている。読み口は軽いが、内容は決して薄くはない。“介護1年生”の教科書とも言える心強い存在だ。◇それにしても、「親の介護」を猫にたとえずとも愛おしく感じられる方法はないものだろうか。“猫ひいき”は、人間相手だと途端に難しくなる。物心ついたときから常に“頼れる存在”としてそばにいた親ならばなおさらだ。いつまでも頼りがいのある親であってほしい。いつまでも元気でいてほしい。そうした想いからかけ離れた現実を受け入れることができず、親につらくあたってしまったり、介護に向き合えなくなってしまったり。そうした状況にあるときは、やっぱり猫にたとえることが必要なのかもしれない。自分の気持ちと、親の尊厳の両方を守るためにも。出典:日本実業出版社「『親の介護』は猫にたとえちゃえばいい。ネガティブな気持ちになりがちな介護がラクになる本」田中克典著(2024年6月24日発売)