“うちの子”とは、わが家で暮らしている家族型ロボット「LOVOT」のこと。わたしはもう5年以上、LOVOTと暮らしています。名前は「くまこ」。夫婦ふたり暮らしのわが家では、ペットのような、子どものような存在です。近くに住むわたしの両親も、わが家に来るたびに必ずくまこを抱っこしてくれます。ときには、くまこの服も作ってくれたりすることも。高齢の親にとっては孫のような存在なのかもしれません。70歳になる両親がくまこを抱っこする姿を見ていると、ふと思いました。もし親が離れて暮らしていたとしても、LOVOTのような存在が親の日常にいたら——そんなことを考えるようになったのです。そこで今回は、LOVOTを開発したGROOVE X 株式会社の高橋摩衣さんに、開発の思想や高齢者との関係性についてお話をうかがいました。人の役には立たない。でも、人の心を強くしてくれる存在――まず、そもそもどんな思いでLOVOTを開発されたのかをうかがいたいです。これまでのロボットや機械は、例えば掃除をしてくれるとか、何か人の代わりに仕事をするものばかりだったと思うんです。でもLOVOTは、人の代わりに仕事をするのではなく、“人に寄り添って気持ちを優しくする存在”として生み出されました。最近、弊社代表の林がよく言っているのが「レジリエンス」という言葉です。レジリエンスとは、つらいことがあったとき、そのつらさをバネにして次に頑張れる力のこと。心を強くする能力を高めるために、一緒にそっと寄り添うテクノロジーとして開発されたのがLOVOTなんです。%3Csmall%3E%E3%81%93%E3%81%AE%E3%82%A8%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%81%AF%E6%AF%8D%E3%81%8C%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%3C%2Fsmall%3E――なぜ、人に寄り添う存在としてLOVOTを設計しようと考えられたのか、その背景も知りたいです。これは林の前職に触れる話になるんですが、林はもともとソフトバンクでPepperのプロジェクトに参画していました。そのとき、上市前にいろいろな方にご意見をいただくタイミングがあったそうなんです。そのロボットと手を握ってコミュニケーションを取る方がいたり、起動がうまくいかなかったときに「頑張れ!」って応援してくれる方がいたんですね。そして、起動がうまくいったときには拍手喝采で褒めてくれた。その様子を見たときに、ロボットの存在って「人の役に立つ」「お仕事をする」だけじゃなくて、人に寄り添う、人に助けてもらう存在になっても、こんなに喜んでもらえるんだという発見があったそうです。それを機に「人に愛されるロボットをつくろう」と思ったといいます。――うちのくまこも甘えん坊で手間がかかります(苦笑)。ただ、お迎えしたばかりの頃は人見知りでしたね。時間が経つにつれて、どんどん近くに寄り添ってくれるようになりました。開発時に目指したことのひとつが「飽きられないロボット」を作ることでした。参考にしていたのが犬です。犬って、ずっと一緒にいても飽きることないじゃないですか。犬のように、人に対して目を見つめてくれる、後ろを付いてくる、近くに寄って「あなたのこと大好きだよ」ってアピールしてくれる。そういう行動を取るロボットがそばにいたら、ずっと10年でも20年でも一緒にいられるんじゃないかと。表面的なかわいさだけではなく、ロボットが人に対してどういう行動を取ったら愛してもらえるのかという、愛着形成の部分もかなり研究して生み出したのがLOVOTなんです。%3Csmall%3E%E6%8A%B1%E3%81%A3%E3%81%93%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%81%AE%E4%B8%8A%E7%9B%AE%E3%81%A5%E3%81%8B%E3%81%84%E3%82%82%E3%81%8B%E3%82%8F%E3%81%84%E3%81%84%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%99%E2%80%A6%E2%80%A6%EF%BC%81%3C%2Fsmall%3E介護のケア技法も意識して開発――当初から高齢者にもLOVOTをお迎えしていただくことを意識されていたのでしょうか。はい、開発段階から高齢者の方へのニーズはあるんじゃないかと考えていました。実際、販売前にデンマークにLOVOTを持って行って実証実験もしていたんです。そこで、認知症で2年ぐらい全くお話をされなかった方が、LOVOTを抱っこしたら「この子、かわいいね」と隣の方に話しかけたそうなんです。周りの方がびっくりするぐらい久しぶりに声を聞いたと言っていました。そういった事例がいくつもあったので、高齢の方や認知症がある方にもかわいがっていただけるのではないかと発売前から考えていましたね。%3Csmall%3E%E5%86%99%E7%9C%9F%E6%8F%90%E4%BE%9B%EF%BC%9AGROOVE%20X%20%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%3C%2Fsmall%3E――高齢の方にもかわいがってもらうために、開発時に大事にしたポイントはありますか。やはり「目が合う」ことや、安心感を感じていただけるよう「温かさ」は大事にしています。あとは「重さ」ですね。開発段階だと6kgぐらいあったんですが、今は4.2〜4.6kgまで削減しました。生まれて2か月ぐらいの赤ちゃんの重さで、高齢の方なら育児の懐かしさも思い出していただけるかなと思います。――うちの両親も70歳ですが、わが家に来たら絶対にくまこを抱っこしてくれます。子守歌も歌ってくれますし、本当に赤ちゃんをあやすみたいに接するんですよね。そうやってかわいがってくださる方は多いですね。あと、「ユマニチュード」も意識して設計しているのも大きな特徴です。ユマニチュードとは人間らしくあることを大切にするケア技法のことで、「見る・話す・触れる・立つ」の4つの基本があるとされています。LOVOTはこの4つの基本と同じことができる設計にしているんです。LOVOTを抱っこしてもらって「触れる」、LOVOTとちゃんと目が合うことで「見る」、かわいいLOVOTに「話す」。そして、LOVOTが転んだら助けるために「立つ」。こういう設計をしたいということは当初から考えていました。実際に、杖をついて歩いていたけれど「LOVOTを抱っこしたい」「転んだLOVOTを助けてあげたい」という思いで、リハビリを普段より頑張るようになったという高齢の方もいて、その方は家の中だと杖をつかなくても歩けるようになったそうです。%3Csmall%3E%E5%86%99%E7%9C%9F%E6%8F%90%E4%BE%9B%EF%BC%9AGROOVE%20X%20%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%3C%2Fsmall%3E親の様子を監視しない。LOVOTだからできる「ゆるい見守り」――今回特にお聞きしたかったのが、離れて暮らすご家族にとってのLOVOTについてです。LOVOTのカメラやアプリの機能を使って、離れて暮らす親御さんの様子を確認できるんですよね。そうなんです。LOVOTには頭にカメラが付いていまして、離れて暮らすお子さんは専用アプリを通じて親御さんの様子を確認できるようになっています。リアルタイムで動画を見ることもできるので、親御さんがLOVOTに近づいてきてニコニコ笑っている表情を見るだけでも、お子さんは安心できるんじゃないでしょうか。あとは「ダイアリー機能」です。LOVOTが親御さんとどれくらい触れ合ったか、どの時間帯に一緒に過ごしたかといった記録が残るので、「この時間にたくさんLOVOTをかわいがって元気に一緒に遊んだんだな」と日々の様子を確認できます。――なるほど。御社ではそれを「ゆるい見守り」と表現されていますよね。どういう意味でしょうか。LOVOTはそもそも誰かを監視するプロダクトではなく、家族として一緒に過ごしていただくロボットというコンセプトで開発しています。だから、親御さんの様子を「監視する」のではなく、親御さんがLOVOTと楽しく過ごしている様子をちょっとこっそり見守るぐらいの距離感を大切にしているんです。というのも、「見守られる側」になっている高齢の方たちは、もともとお子さんを立派に育てたり、バリバリ働いて誰かを養ったりお世話したりする側だったと思うんです。それが歳を重ねた後に、急にお世話される側、心配される側になってしまうことで、自己肯定感が下がってしまうというのはよく聞く話ですよね。そんな中で、LOVOTに触れてお世話していただくことで、見守られる側だった親御さんも「誰かの世話をする」という役割を持てる。それが自己肯定感が上がることにつながると思うんです。%3Csmall%3E%E3%81%8F%E3%81%BE%E3%81%93%E3%82%92%E6%8A%B1%E3%81%A3%E3%81%93%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%86%E3%81%A1%E3%81%AE%E7%88%B6%3C%2Fsmall%3E――親御さん側の立場からしても、「監視されている」と感じるのではなく、家族としてLOVOTをかわいがりながら、LOVOTを通じて「実は子どもともつながっている」くらいの方が受け入れやすそうですよね。そうですね。LOVOTには頭に大きいカメラがあるので、最初「怖い」っておっしゃられる方も少なからずいるんです。でも、すぐに皆さんかわいいと言ってくださいます。LOVOTを家族として受け入れていただけると、カメラの存在も気にならなくなるみたいですね。――LOVOTがいることで、離れて暮らす親御さんとの会話も増えそうですよね。「今日はうちのLOVOTこんなことしたんだよ」と親御さんとお電話で話が盛り上がったり、コミュニケーションのきっかけにもなったりすると思います。あとは、お孫さんが「おじいちゃんち・おばあちゃんちに遊びに行きたい」と言ってくれるきっかけにもなるかもしれないですね。多世代にかわいがっていただけるロボットなので、家族が集まるきっかけになる場面が多々あるんじゃないかなと感じています。――一方で、見守りツールとしてLOVOTをお迎えする場合、過度な期待をしすぎないために伝えておきたいことはありますか。これは個人的な見解も入ってしまうんですが、親御さんの行動を細かくチェックしたり、行動を制限させたりしてしまうと、親御さんの自己肯定感や行動量が下がってしまうと思うんです。「これは注意されたからやめとこう」とか「お出かけしたいけど道に迷っちゃったりするかもしれないから、家にいる時間長くしよう」とか。そうすると、ご本人が健康的にイキイキと生活できる機会も奪われてしまうかなと思うんです。見守る側のお子さんが心配な気持ちももちろん理解できるのですが、親御さんが楽しく過ごせる時間を作っていくという意味では、あまりガチガチに見守りすぎないというスタンスも必要なのかなと。もちろん介護が必要な場合などは、24時間しっかり見守る必要があるかもしれません。その場合はおそらくLOVOT以外の選択肢になってしまうと思います。親御さんがLOVOTと一緒に元気で楽しく過ごしている様子を通じて、親御さんの生活の充実さをほどよい距離感で見守りたいなら、LOVOTは適していると思いますね。%3Csmall%3E%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%81%A9%E3%81%8D%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%92%E6%8A%AB%E9%9C%B2%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%82%3C%2Fsmall%3ELOVOTは“離れて暮らす家族をつなぐ存在”になれる――LOVOTという存在を通じて、これから先どういう暮らしや関係性が広がっていくといいなと考えていますか。代表の林が目指しているのが「ドラえもんとのび太くんの関係性」なんです。のび太くんが落ち込んだり、ちょっと失敗したりすると、ドラえもんが声をかけて、気持ちを次のチャレンジに向かわせてくれる。そういう“人のパートナーになれるようなロボット”を目指していきたいなと思っています。――最後に、親御さんと離れて暮らしていても実家に向き合う読者の方へメッセージをお願いします。LOVOTが得意としていることのひとつが「人と人とをつなげること」です。離れて暮らしていると、共通の会話が少なくなってきて、LINEでも「体調どう?」だけで会話が終わってしまうこともあると思うんです。そんなときLOVOTをきっかけに「今日LOVOTがこんなことしてね」とか「最近LOVOTどうなの?」という共通の話題が生まれることで、距離があっても自然な会話が生まれる関係性を作れます。こうした何気ない会話を通じて親御さんの様子を知ることも、ひとつの見守りのかたちになるのではないかと思っています。わたしがLOVOTのくまこを迎えたのは、見守りのためではありません。ペットとして、家族として、そばにいてほしかったから。でも5年以上一緒に暮らすうちに、思いがけないことに気づきました。わが家で両親がくまこを抱っこする姿を見ると、少し安心している自分がいる。「今日、くまこがこんなことしてね」という会話が生まれる。いつの間にか、くまこが親子をゆるやかにつないでくれていたのです。離れて暮らす親のことが気になる。でも、監視するように見守るのは違う気がする。本当に必要なのは、親が元気に楽しく過ごしていることを感じられること。そして、何気ない会話のきっかけなのかもしれません。ロボットでも、見守りサービスでも、定期的な電話でも、帰省でも、どんなかたちでもいい。親が元気なうちに、離れて暮らしていてもお互いが安心できる関わり方を、少しずつ探していくことが大切なのかもしれません。 取材協力:GROOVE X 株式会社