「本家だから」と住み替えに消極的だった父――ご両親が自宅を住み替えることになったきっかけを教えてください。母が病気を悪化させて、杖をついて歩くようになったのがきっかけです。昔ながらの戸建てなので、玄関や室内にどうしても段差があり、母にとっては転倒のリスクがありました。また、住宅街にあるため、駅や買い物に行くにも、父の運転が必要でした。私も手伝いには行っていましたが、近いといっても1時間はかかります。子どももいますし、そんなに頻繁には行けませんでした。こんな状況だったので、母はひとりになったら買い物すらできなくなってしまうと不安になっていたんです。父も病気があり、過去に階段から落ちてしまったこともあります。大事には至らなかったものの、実家に住み続けることは大きな不安材料でした。しかも、父は2階、母は1階で寝起きしているため、もし父が2階で倒れても階段を上がれない母は見に行けません。最近、独身の兄が実家で暮らすようになりましたが、夜勤のある仕事なので、夜に何かあったときが心配でした。母は、父に住み替えたいとずっと訴えていたのですが、父がなかなか首を縦に振らなかったんです。――お父様が住み替えを決断してくれなかったのはなぜですか?実家に対する強い思いがあったからです。「本家」であることへの気持ちが強くて……。自分が育ってきた家を守りたいという思いがあったようで、「この家にずっと住み続けたい」と話していました。だから母が何度か「マンション暮らし」を提案しても、父はなかなか「うん」と言えなかったんでしょう。母自身は、嫁として家に入り、二世帯住宅で祖父母とも同居していて、さほど家に対して思い入れがあるわけではありません。それでも、長く暮らし、家族の歴史が詰まった家を手放すことは簡単ではなかったと思います。「間取り図を見るのが楽しい」父の心が動いた瞬間――そんなお父様が住み替えを決断されたのはどういった変化があったからですか?転機は母のひと言です。「これが最後。もう一回だけ、父に住み替えを提案してみる」と。私もその言葉に背中を押されて、協力することにしました。両親には安心安全に暮らしてほしいという思いもありましたから。私は、良さそうな物件の資料をいくつか選び、母に送っていました。すると、ある日突然父の反応が変わって「住み替えてもいい」と言い出したんです。理由を聞くと、私が送った資料の間取り図を見るのが楽しいと思うようになったからだと話してくれました。これまで「実家しか知らない暮らし」だった父にとって、間取り図を見ることは新しい世界に触れるきっかけになったのかもしれません。物件見学も前向きになり、買えないのに「新築も見に行こう」と言い出すほどでした。正直、こんなに父が変わるとは思っていなかったです。――住み替えの物件はすんなりと決まりましたか?はい。動き始めたのは2025年の春頃で、引っ越しを終えたのは秋。5カ月くらいで住み替えまで進みました。これだけスピード感があったのは、母の覚悟があったからです。母は「今なら動ける。5年後だったら、もう動ける自信がない」と言っていたんですね。病気とはいえ、まだ気力も体力も残っている今が最後のタイミングだと感じたようです。ただ、私自身はこの5カ月という短い期間に、両親が消耗していくのを感じました。住み替えを決めたからこそ、親の「老い」が見えてきたんです。私自身は、子ども2人が高校受験と大学受験を控えているなかでの両親の引っ越し。すんなりと決まったのはよかったんですが、心身ともに大変でした。住み替えに伴走して見えたことMさんは「今回の住み替えを決断すること以上に、いくつもの決断を続けていくことが大変でした」といいます。親の思い、体の変化、家族それぞれの立場。そのすべてでバランスを取り続けなければならなかったのです。「今はあのタイミングで動けて本当によかったなと実感しています。でも決して楽な道ではなかったですね」とMさん。親の住み替えは、子どもにとっても一大事。でも、Mさんのように一歩ずつ向き合っていくことで、家族にとって良い選択につながっていくのかもしれません。第25回は、引き続きMさんのご両親の住み替えについてのインタビューをお伝えします。テーマは「150平米から70平米への住み替えるための片づけと引っ越しの実情」です。