親のデジタル活用の「もったいない」を変えたくて——どういった経緯で見守りサービスの開発を始めたのでしょうか。もともとは「親のデジタル活用をもっと便利にしたい」という思いからスタートしています。実は、うちの両親が知らない間にアプリ課金の被害に遭っていたんです。何かを契約したタイミングでいくつもアプリを登録させられていて、ネット回線がつながっていることすら知らずに月3,000〜4,000円の回線料金を払い続けていたんです。「デジタルに不慣れなことで損をしてしまうんだ」と身近に感じました。一方で、実家のテレビにAmazonプライムビデオを設定してあげたら「こんな便利なものがあったのか」と親が喜んでくれた経験も印象に残っていて。デジタルに抵抗感を持つ親世代であっても「デジタルの活用の仕方が分かれば、自分たちの暮らしをよりよくできると気づける」と思いました。親世代にもデジタルを活用しないなんて「もったいない」と思ってほしい。そうした親世代のデジタルとリアルのギャップをなくしていく「実家DX」を手がけたいという気持ちが固まっていきました。「コンセントを挿すだけ」「LINEだけ」にこだわった理由——そこからどうして「見守りサービス」にたどり着いたのでしょうか。実家DXのテーマをいろいろと検討した結果、人感センサーを活用した見守りサービスにたどり着きました。ところが、競合サービスを調べていくと、導入するには「Wi-Fiがないと使えない」「専用アプリのインストールや会員登録がとても大変」という壁があることがわかって。実際にいくつか取り寄せてみたのですが、Web業界に長く関わってきた自分たちでさえ、設定に手こずってしまいました。これは今、親を見守る世代も親世代も使うことが難しいだろうなと。デジタル機器って、そもそも高齢者が使う前提で設計されていないものが多いと気づいたんです。本当はもっとシンプルに操作できるものを作れるはずなのに、若い世代やリテラシーの高い人が使う前提で作られている。製品自体が変わらないと、いくら普及させようとしても高齢者には浸透していきません。だからこそ、私たちは「コンセントを挿すだけで設置できる」というシンプルさにこだわりました。——実際、見守りサービスを調べていると「カメラ付き」のものも多いですよね。そのあたりはどう考えられたんですか。カメラを使った見守りも、ヒアリングすると実家の親世代にはかなり嫌がられることがわかりました。それなら、カメラなし・自宅のインターネット回線不要・LINEだけで完結する形を目指そうと考えました。「ここわ」の人感センサーは、幅10cm×高さ10cm×奥行4cmのコンパクトサイズです。コンセントに挿すだけで設置完了し、赤外線で人の動きを感知する仕組みです。1日のうちに必ず利用するトイレや廊下に設置してもらえば、センサーが感知しなかったら「何かあったのかな」と察知できます。機器の中にインターネットに繋がるsimを入れたのも、実家にWi-Fi回線がない場合も多いので、届いたその日にコンセントに挿すだけで使い始められる形にしたかったからです。——見守りサービスなどを導入する場合、中には大がかりな工事が必要なものもあります。でも「工事で他人を家に入れたくない」という親御さんも多いと聞くので、そういうご家庭にも受け入れてもらえそうですね。インタビューでも「家に人を入れたくない」という声はとても多かったですね。大がかりな工事が必要なサービスだと、そこで断られてしまう。「挿すだけ」のシンプルさにこだわったのは、子どもが帰省するときに持って行って設置できるし、親御さん自身でも一人で設置できる、そういう形にするためでもあります。——LINEで完結させたのも、こだわった部分なんですか。スマホでLINEを使っている人は世代を問わないですよね。専用アプリをダウンロードして会員登録させるという手間をなくして、すでに馴染みのあるLINEを使うというだけでハードルがかなり下がるんです。実際、ユーザーさんからも「LINEで完結できること」「インターネット不要なこと」を一番評価いただいています。見守りは「監視」ではなく「つながり」のため——見守りサービスの導入を検討している方20人ほどにインタビューをされたそうですね。どんなことがわかりましたか。「親の見守りをちゃんとやらなきゃ」という気持ちはあっても、実際に動いているのは何かきっかけがあった人だけでした。「以前親が転倒したことがある」とか「足腰が不自由になってきた」とか。一方で、元気な親に見守りを提案することの難しさも実感しました。「親に『まだ私は大丈夫』と言われてしまう」「子どもに監視されていると受け取られてしまう」といった声がありましたね。インタビューの中で特に印象的だったのが、親御さんの多くが「自分が親だから子どもに心配をかけたくない」という気持ちを持っていることです。中には「骨折しても子どもに言わなかった」という方もいました。この意識は、なかなか変わらないみたいです。——確かに、親だからこそ「心配かけたくない」と思うかもしれないですよね。そんな中で、「ここわ」の導入を受け入れてくれた親御さんは、どんなきっかけで納得してくれたんでしょうか。「子どもがそう言うなら、設置させてあげようか」という方が多いんです。「自分が不安だから見守りサービスを導入したい」というより、「これを設置して子どもが安心するなら協力してやるか」という感覚でしょうか。毎日連絡するのもお互い大変だし、それをこのサービスで代替できるなら良いかも、という受け止め方のようです。だからこそ、私たちは「ここわ」を単なる見守りサービスではなく“コミュニケーションツール”だと伝えたいんです。これを設置したことで親子のやり取りが増えた、と言える状態を生み出すことを目指しています。親が独居になった時点が、見守りの始めどき ——実際に見守りサービスを導入される方は、どんなタイミングが多いのでしょうか。先ほども話したとおり、見守りサービスを導入される方のほとんどが「何かあったあと」です。自宅でケガをして入院してしまって、はじめて見守りの重要性に気づく。「もっと早く始めておけばよかった」とおっしゃる方も多いです。——「何かあってから」だと遅い気がするけど、元気なうちに提案するのも気が引けてしまう。となると、どのタイミングで始めるのがいいのでしょうか……?おすすめのタイミングは「親が独居になった時点」です。地方に離れて暮らす両親のどちらかが亡くなって、親が一人暮らしになったとき。そうなると、子ども側としてもより心配になるので頻繁に連絡したり、実家に帰ったりするようになります。たとえまだ元気だったとしても、そのタイミングこそ見守りを始めるときだと思います。——早期発見が大切、ということですね。自宅ではなく外出先で転んで家に帰れないこともあります。いつもなら自宅で活動しているはずの時間帯にセンサーが反応しなければ、異変に気づけますよね。だからこそ、早期発見のための土壌を作っておくことが大事なんです。とはいえ、日本人はなかなか予防にお金を使わないといわれています。なので、予防のためのツールではなく、“日常のコミュニケーションの延長ツール”として使い始めてもらいたい。「ここわ」を通じてLINEで子どもにお知らせしているうちに、気づいたら見守りにもなっていて、それを通じて親子でコミュニケーションが取れるようになった、という世界をつくりたいですね。「ここわタッチ」はセンサーなしで始める新しい見守り——2026年1月に始まった「ここわタッチ」は、センサー機器を使わないサービスと聞きました。「ここわタッチ」は、LINEだけで完結する体調確認・コミュニケーション型見守りサービスです。毎日決まった時間に親御さんのLINEに通知が届いて、「今日の体調は?」という問いかけにワンタッチで答えていただきます。その回答が見守る側に届く仕組みで、一定時間応答がない場合には異変通知も届きます。——具体的にはどんな選択肢があるんですか。「いつも通り」「ちょっと疲れている」「気になることがある」「体が重い」の4つです。最初は「絶好調・好調・普通・悪い」という選択肢を考えていたのですが、実際にテストをしてもらった方から「歳をとると、いつもどこかしら痛いから絶好調ってなかなかない」とか「絶好調と好調の違いが難しい」というフィードバックをもらいました。そして社内で議論をして今の形に落ち着きました。——「気になることがある」というボタン、面白いですね。これはどういう意図で作られたんですか。親御さんが「気になることがある」を押したときだけ、「親御さんが気になることがあると言っているので、連絡してみては?」という通知がお子さんに届く仕組みにしています。そのボタンを押すということは、親御さんも何かしら伝えたいことがあるのだと思うので。LINEで直接言いにくいことも、第三者を介してなら伝えられるという人も少なくないですよね。それに、毎日通知が届くことで、親がLINEを日常的に使うきっかけにもなります。中には通知が来たらすぐ回答できるように、日々の体調確認の時間になる前に待機しているという方もいるそうで(笑)。回答することが習慣になっている証だとは思うので、そういう反響はうれしいですね。「今日は元気?」の先へ——デジタルで孤独感を減らしていく——「ここわ」や「ここわタッチ」を通じて、親子関係がどう変わることを期待していますか。例えば「ここわ」の場合、センサーの反応状況をグラフで確認できます。「いつもは朝7時に動き出すのに、今日は9時まで反応がない」といった小さな変化も見えるようになります。最短24時間で定期レポートを送るようにしていて、最後にいつ動いたかとか、親の深夜の生活リズムなど日々の様子もなんとなくわかるんです。「点」じゃなくて「流れ」で親の日常が見られるのは大きいし、それがコミュニケーションのきっかけにもなるんじゃないかなと思います。また、頻繁に連絡をとる方でも、「今日は元気?」という確認作業がお互いの負荷になっているパターンもあります。それをサービスで代替することで、本質的なコミュニケーションに集中できるようになってほしい。元気なのはわかっているから“そのもう一歩先の会話”ができる関係になってほしいですね。——デジタルと高齢者のかけ合わせは難しいというイメージもありますが。「うちの親にデジタル機器は無理だろう」と子ども側が勝手にハードルを作ってしまっているケースも多いなと感じています。もちろん、今の80〜90代はデジタルと接してこなかった方がほとんどなので、デジタルに触れるのが難しいのは正直なところです。だからといって、「あと20年もすればデジタルリテラシーの低い人が少なくなるから、これから先は受け入れてもらいやすくなる」という考え方にも我々は賛同できません。あくまで、今の80〜90代でも使いやすいか便利になるプロダクトを作っていきたいですね。——お話を聞いていると、大久保さんは一貫して「コミュニケーションツール」という言葉を使われていますよね。「見守り」という言葉についてはどう考えているんですか。見守りサービスを展開している会社として矛盾しているかもしれないですが、実は私たちは「見守り」という言葉にこだわっているわけではないんです。根底にあるのは「お互いが元気にしていることがわかればいい」というシンプルな思いだけ。今は「見守り」と言わないと用途が伝わらないので使っていますが、本当はその言葉自体をなくしたいと思っています。こういうサービスを利用するのが当たり前になれば、親御さんの心理的なハードルも一気に下がる。スマートロックもAIもそうですよね。最初は誰も使っていないのに、気づけば当たり前の存在になっていきます。「こういうサービスを利用して親を見守りながらコミュニケーションをとるのが普通だよね」という世の中にしていきたいんです。見守りに限らず、デジタルとリアルのギャップをなくすことそのものが、私たちのやりたいことなので。——お話を聞いていて、「ここわ」も「ここわタッチ」も見守りサービスというより、“親とつながるツール”なんだなと感じました。「ここわ」や「ここわタッチ」を通じて私たちが最終的に目指しているのは、親の孤独感を減らすことです。独居世帯が増えて、地域のつながりも家族のつながりも薄まっている中で、デジタルを活用したコミュニケーションでその孤独感を減らしていきたい。誰かとのつながりを感じながら「いい人生だったな」と思って旅立つことができる——そういう世界を、デジタルとコミュニケーションで作っていきたいと思っています。大久保さんとお話ししているうちに、「見守り」は子どもから親への一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションなんだと気づきました。そう考えると、「見守り」という言葉に対する抵抗感や「いつ始めるか」という問いへの答えも変わってくる気がします。親がまだ元気なうちは「見守りなんて早すぎる」と思ってしまう。でも、コミュニケーションのきっかけとして捉えれば、早すぎることはない。むしろ、親が元気なうちに見守りサービスを利用することを習慣にしておくと、自然に長く使い続けられるかもしれません。親は子に心配をかけたくないから言わない。子は親が心配だから確認したい。そのすれ違いを、デジタルというツールがやさしくほどいていく。「今日は元気?」をサービスに任せれば、その先の会話につながっていくはずです。親とのつながり方に正解はない。でも、選択肢があることを知っておくだけで、いつか訪れる「そのとき」への備え方が変わるのかもしれません。取材協力:TRIAS株式会社・ここわ:https://cocowa.tri-as.co.jp/・ここわタッチ:https://cocowa.tri-as.co.jp/touch/