老後は「死」を連想させる。だから、なかなか親に切り出せなかった——「マンガで解決」シリーズは、介護、認知症、老人ホームと、3冊にわたって親の老いを描いていますよね。そもそも、どういうきっかけでご両親の老後に向き合うことになったのでしょうか。実は15年ぐらい前から、親の老後をどうしたらいいかということを考えていたんです。当時お仕事でご一緒していたファイナンシャルプランナーの畠中雅子先生から、「親が元気で判断力があるうちに介護施設の見学に行ったり、将来どうしたいのかちゃんと聞いたりしておいた方がいい」とすごく言われていて、私も本当にその通りだなと思っていました。でも、いざ親を目の前にするとどうしても切り出せなくて……。老後の話って結局“死”につながるじゃないですか。すごく言いづらかったんですよね。——そのお気持ち、すごく分かります。ご両親のことはどなたかと相談はされていたんですか。京都にいる姉とは結構早くから話していました。姉も実家から離れて暮らしていることを気にしていましたし。姉は一人暮らしなので両親を京都に呼び寄せるという案もあったのですが、「おそらく本人たちは今の横浜の家から絶対に離れたくないだろう」という話になり、それは実現しませんでした。「両親だけでできるだけ実家で暮らしてもらって、どうしてもそれが難しくなったら施設に入ってもらおうね」と、早い段階から姉と合意できていたのは大きかったですね。——では、ご両親の老後に対して具体的に動き始めたのはいつ頃だったのでしょうか。新型コロナウイルスが流行する少し前に、母が脊柱管狭窄症になって歩けなくなったことがあって、それ以来1か月に1回、私が様子を見に行っていたんです。ただ、コロナ禍になって半年ほど私が行けなかった時期があって、そこで一気に2人とも老化が進んじゃって……。そうこうしているうちに、ただ良かったことは、コロナ禍の前に、介護経験者の友人から「とにかく介護認定を早く取っておいた方がいい。認定されるまでに時間がかかるから、まずは近所の地域包括支援センターに行ったほうがいいよ」と言われたんです。親がまだ元気でもとにかく行ったほうがいい、と。行っておいてよかったのは「高齢の夫婦がここに住んでいるということを行政に認識してもらえたこと」ですね。すぐに要支援1が取れて、その後の区分変更もスムーズにいったのはありがたかったです。——そんな状況の中で親の老いをテーマに本を書こうと思った理由もうかがいたいです。ちょうどその頃に編集者さんに声をかけていただいたんです。それに私は、問題にぶち当たると「これは本にしよう!」って思っちゃう性分で(笑)。しかも本の出版に合わせるかのように、親の老化がどんどん進んでいってしまって……。シリーズ2冊目は認知症をテーマにしているのですが、実はその取材が終わった頃に父が認知症になったんです。自分が直面する前に、取材を通じて知識を得られたことは大きな支えになりましたね。「介護は親のお金でやる」自分たちの老後のことも考えないといけない——シリーズ1冊目、2冊目では介護や認知症にまつわる“お金”が大きなテーマになっていますよね。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子先生に「介護は人脈、お金、情報」と言われたことと、畠中雅子先生に「介護は親のお金でやるのよ」と言われたことが印象に残っていて。自分たち子世代ができるだけ介護費用を負担しないで済むような方法を考えないといけないと思うんです。私たちも100歳を超えると言われているからこそ、自分たちの老後のことも考えないといけないですしね。だから、まずは親の資金がどれだけあるかを知ることが、すべての土台なんです。それがないと介護サービスを受けるのも、ホームを選ぶのも、全部決められませんからね。——とはいえ、親からお金の話を聞き出すのはすごく難しいですよね……。難しいと思います。ただ、うちの場合は母が現実的な人で、早い段階から資金をノートにまとめてくれていたんです。母は姉と私に早く伝えたかったみたいなんですけど、父は「まだ早い」「縁起でもない」と言うばかりで。結局、父がいないところでこっそり母から、通帳や印鑑の場所を全部聞きました。だから最終的に介護の状態になっても、「うちの資金はこれだけあるから、ここまで使える」とわかっていたので、お金の不安はほぼありませんでした。老人ホームの入居を検討したときも、ファイナンシャルプランナーの黒田尚子先生にも計算してもらって「100歳まで老人ホームにいても大丈夫」ということになったので、安心して入居できたんです。「介護は情報戦」知っておくことで解決することがたくさんある——シリーズのもうひとつの特徴として、介護経験者のリアルな声がたくさん入っていますよね。ご自身の体験だけをまとめることにしなかった理由もうかがいたいです。自分自身の経験上からも言えることですけど、介護って正解がひとつじゃないんですよね。私だけの漫画にすると私のケースだけになってしまう。99%の人が私がやったとおりにはいかないじゃないですか。だから、なるべくいろんな人の声を載せたかったんです。一緒に本をつくった制作チームのメンバーに話を聞いても、親の介護状況が三者三様で。あるメンバーはお母様の認知症がどんどん進んでいったので、近くに呼び寄せて5年ぐらい介護していましたし、あるメンバーは、コロナの前ぐらいから親ががんになり、三姉妹で遠距離介護をしていて大変な思いをしていました。自分たちの体験だけでもこんなに違うんだから、なるべく多くの声を集めようと思ったんです。%3Csmall%3E%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA1%E5%86%8A%E7%9B%AE%E3%80%8E%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%81%A7%E8%A7%A3%E6%B1%BA%E3%80%80%E8%A6%AA%E3%81%AE%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E3%81%A8%E3%81%8A%E9%87%91%E3%81%8C%E4%B8%8D%E5%AE%89%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%8F%E3%82%88%E3%82%8A%3C%2Fsmall%3E――アンケートに寄せられた声で印象的だったものはありますか。アンケートのフリースペースに「書くことで自分の中の気持ちや考えがまとまって、ありがとう」と書いてくださる人がたくさんいました。制作チームみんなで泣きながら読みましたね。やっぱり介護している人はどこか孤独なんです。誰かに話したい、聞いてほしいっていう気持ちがあるんだと思いますね。――読者の皆さんからの反応はいかがでしたか。一番多かったのが「自分だけじゃなかった」という声でした。ひとりでポツンと介護の世界にいるような気がしていたけれど「こんなケースもあるんだ」「私より大変な人もいっぱいいるんだ」と、介護の世界全体を広く見られたことがすごく救いになったという話をよく聞きました。私自身も「自分だけじゃない」と思えたことがあったので、すごく共感できました。――トメさんご自身もほかの介護経験者の方とつながっていたんですね。そうなんです。コロナ禍のオンライン飲み会で中学の同級生と話したら、介護の話ですごく盛り上がって。同級生の親も大体同じ年齢だから、介護している人も割と多くて。お互いの親のことも知っているから、「おじさん大丈夫?」「おばさんどう?」って親身になってくれたんです。ワクチンの予約が取れなかったとき、友だちがわざわざうちの両親のために予約を取ってくれたこともありました。 ――それは心強いですね。本当に救われましたね。介護はひとりで抱え込むのが一番つらいし、一番良くない。同級生じゃなくても、何かコミュニティがあればいい。カジュアルに介護の話をしてみたら「実はうちも……」って声が返ってくることがあるんです。そこにヒントがあるかもしれないし、情報にもなる。ひとりじゃないと思えるだけで、ずいぶん楽になりますよ。――お話をうかがっていると、介護への知識や親の経済状況、他の人が介護にどう向き合っているかなどを“知っておくこと”の大切さをすごく感じますね。本当に「介護は情報戦」なんです。例えば、地域包括支援センターの存在だって、こっちから調べないとわからないんですよね。でも、知っていれば解決できることはたくさんあるし、介護を経験している人と話すことで「うちはこうだったよ」というヒントももらえます。親が元気なうちから情報を得ておくことが、漠然とした不安を減らす一番の方法なんだと思いますね。介護をしている人は、どこか孤独なんだと思います――。トメさんのその言葉が、ずっと心に残っています。「自分だけじゃなかった」と思えること。それだけで救われる人がいる。この記事が、そんな小さなきっかけのひとつになればうれしいです。そして、介護について知っておくことは、不安を消すためじゃなくて、いざというときに動けるための「お守り」なのかもしれません。次回は、トメさんの遠距離介護の工夫や、老人ホーム選びのリアルについてお届けします。>>#2はこちら【書籍紹介】『マンガで解決 親の介護とお金が不安です』(主婦の友社)著者:上大岡トメ 監修:黒田尚子※電子書籍あり『マンガで解決 親の認知症とお金が不安です』(主婦の友社)著者:上大岡トメ 監修:杉山孝博/黒田尚子※電子書籍あり『マンガで解決 老人ホームは親不孝?』(主婦の友社)著者:上大岡トメ 監修:畠中雅子※電子書籍あり