片づけよりも母と一緒に過ごす時間を優先――実家でお母様の看取りをしている間は、どんな気持ちでしたか?告知を受けたとき、母は現実を受け止められませんでしたし、治療方針でも衝突しました。自宅療養がいいと言う母に、「なんで治療しないの?死んじゃうんだよ」って、私も大声を出してしまって、怒鳴り合いになったこともあります。今振り返ると、あれは必要な時間だったんだなと分かるんですが……。治療を全部試してもダメだったと後悔するより、「家でどう過ごすか」にエネルギーを使えたのは結果的によかったと思っています。週末ごとに神奈川の自宅と栃木の実家を往復する生活は、正直大変でした。当時、下の子は小学生、上の子は高校受験を半年後に控えた受験生でしたから。けれども、片づけをするためではなく、一緒に過ごす時間という位置付けだと考えていたので、大事にしたいと思っていました。実際、亡くなる2週間前までは、母はちゃんと起きてリビングに来て、一緒に過ごしていたんですよ。これは、私自身が現実を受け止めるための時間にもなっていました。――モノの片づけはせずに、まずは情報整理に取りかかったという話でしたが、具体的にはどんなことをしましたか?最初にやったのは通帳や保険などの確認でした。母がすべて管理していたので、私も父も「家のなかに何があるのか」わからない。モノはあとからでも何とかできますが、「今」把握しておかなければならないのは「実家の情報」だと感じたからです。母はモノを捨てられない性格ですし、モノの整理から始めても進まないのは目に見えていました。母に残された時間を考えると、情報整理を優先する必要があったんです。特に気になったのは、お金や不動産などの情報です。母が家計管理をしていたので、私も父もこういった情報をあまり把握できていませんでした。そこで父と一緒に一度ちゃんと整理しておこうという話になったんです。実家には、昔ながらの大きな金庫があり、そのなかに、銀行の通帳・印鑑・権利書・保険関係の書類などが保管されていました。「なんでこんな古い通帳まで……」と思うようなものも入っていました。でも母のなかでは全部つながっていたんですね。モノと同じように、たくさんあっても管理できていました。母に聞けば、この印鑑は何用、この通帳はどこの銀行のものだとすぐに答えが出てきます。こうして母に確認しながら、父と一緒にリスト化を進めていきました。これまで気づいていなかった保険や古い銀行口座などが見つかるたびに、母に聞いて状況を確認し、必要であれば解約手続きを進めました。こうやって情報をコンパクトにできたのは、その後大きな助けになりました。本当にやってよかったなと思っています。片づけって、まずモノを減らすことだと思っていたんですけど、それより先に情報整理が必要なんだと学びました。後ろめたくても、確認しておきたかったお金と情報のこと――お母様にいろいろと確認するのは聞きづらくありませんでしたか?もちろん、後ろめたい気持ちがなかったわけではありません。まるで死を受け入れているかのように聞こえてしまうんじゃないかと怖くもありました。ただ、そこで立ち止まってしまったら、何も進みません。お金や契約の確認については、母がしっかりしているうちだからこそ、確認できたと思っています。情報整理がスムーズにできたのは、母の記憶力、管理能力のおかげですね。――この経験を通じて感じたことはありますか?片づけは「捨てる」だけではないということです。まずやらなければならないのは状況把握。実家の片づけというと、家具や衣類の整理を思い浮かべがちです。でも実際には、その前に確認しておくべきことがたくさんあります。通帳や保険、連絡先、契約関係などはもちろん、それらを「誰が把握しているのか」ということまで知っておく必要があります。私にとって、この情報整理を先にやったことが、今後の片づけの下支えになりました。Iさんは、情報整理のあと、今度は衣類やキッチンなどモノの片づけにも向き合っていくことになります。第29回は、Iさんのインタビューの続きです。モノに向き合い始めたのに、思っていたようには進まなかった話についてお伝えします。