父方のお墓が墓じまいされ、あとから気がついたこと大井:長谷部さんがお墓について考えるようになったきっかけは、墓じまいだったそうですね。長谷部さん:そうなんです。父の故郷である熊本にお墓があったのですが、2016年の熊本地震でお墓が少し傾いてしまったそうで……。父は長男でしたが、当時すでに認知症の症状があり、現地とのやり取りが難しい状態になっていたんです。そこで母が父の妹たちと相談し、リモートで業者に墓じまいの手配をしたそうです。取り出したご遺骨は茨城県の合祀墓へ移されていました。大井:熊本から茨城へ。ずいぶん離れていますね。長谷部さん:母が依頼した業者が提携しているお寺だったようです。茨城には縁もゆかりもなかったので、最初は驚きました。でも、父の死後にやっと母と一緒にその合祀墓を訪ねて、どんな場所に供養されたのかを確認できたとき、すごくホッとしたんです。母も安心していました。それまで自分がお墓についてほとんど考えてこなかったことにも気づきました。ご先祖がいなければ自分はいま存在していないのに、祖父のご遺骨がどこにあるのかすら知らないままになるところだった。それは少し不義理だったな、と。そこからお墓について調べてブログを書くようになったのが「おはかんり」の始まりです。大井:「おはかんり」では、現在どのような活動をしているのでしょうか。長谷部さん:お墓について何に悩んでいるのか自分でも整理できない方や、誰に相談すればよいかわからない方のお話を聞く相談窓口を設けています。デジタル上でお墓の情報を管理するツールの開発も進めているところです。墓じまいを決める前に「お墓とは何か」を考える大井:遠方のお墓を誰が守るのかという悩みは、いろいろな家で起きていますよね。うちの父方のお墓は、田んぼの中にある集落墓地のような場所にあります。草取りなどの管理も大変なので、親族の間では「もう納骨堂でもいいんじゃない?」という話も出ているのですが、いとこは「墓を守る」と言っていて。長谷部さん:守りたいと思っている方がいるんですね。大井:本人がそう考えているなら、今はお任せしようということになっています。お墓を管理する大変さだけでは決められないこともありますよね。長谷部さん:そう思います。お墓が遠方にあり「今は親が管理しているけれど、高齢になって難しくなってきたから、この先どうしたらいいんだろう」と考えている人は多いです。ただ、いきなり「どう墓じまいするのか」を話すのではなく、その前に「自分や家族にとって、お墓とはどんな存在なんだろう」と考えてほしいんですよね。大井:「自分たちにとってお墓とはどういう存在なのか」を考えることで、選択も変わってくるのでしょうか。長谷部さん:変わると思います。向き合った結果、「やっぱり自分たちにはお墓が必要だ」とわかり、墓じまいをしない人もいます。墓じまいをしようと石材店へ相談に行ったものの、美しい五輪塔を見て建て替えることにした方もいたそうです。お墓をなくしたかったのではなく、供養を続けたかったのだと気づいたんですよね。大井:残すか、しまうかの二択ではないんですね。長谷部さん:そうなんです。話してみた結果、「今は墓じまいするかどうか決めない」と判断を保留することも、もちろん選択のひとつです。墓じまいは一度すると元には戻せません。本当に家族や親族の気持ちを確認したのか、考える時間が必要だと思います。大井:お墓は管理している人だけのものではないですからね。親族のなかには、心のよりどころにしている人もいるかもしれませんし。長谷部さん:お墓を管理している本家だけで決めた結果、分家の方から「なぜ相談してくれなかったのか」と言われることもあります。これから引き継ぐ子や孫がどう思っているかも、聞かなければわかりません。また、親世代のなかには「子どもに負担をかけないようにしないと」「自分たちは承継者が不要な永代供養にしなきゃ」と焦っている人も少なくありません。でも、子どもたちは今のお墓を残してほしいと思っているかもしれない。まずは互いの気持ちを知ったうえで、次の世代に引き継ぐのか、自分たちの代で墓じまいするのかを考えてほしいですね。親の希望を聞いておくことが、遺された家族の支えになる大井:これまで受けた相談のなかで、印象に残っているケースはありますか。長谷部さん:遠方に住むご両親が管理するお墓について相談された方がいました。話を整理するうちに墓じまいの道筋が見え、ご両親が入る新しい納骨先も手配できました。その後、わりと短い間にご両親を相次いで亡くされたんです。大井:それは大変でしたね……。長谷部さん:でも、事前にご両親の希望を聞き、家族で話して動いていたので、迷わず対応できたそうです。「やっておいてよかった」とおっしゃっていました。話をしていなければ、墓じまいをしてよいのかもわからないまま、ご自身だけで決めなければならなかったと思います。大井:自分ひとりで決めるのと、親の希望を受けて動くのとでは、気持ちの負担が大きく違いそうです。 長谷部さん:そうなんです。お墓には何代も前の先祖の遺骨が納められている場合もあります。長く受け継がれ、供養されてきたものを、自分の判断で動かすことには重みがありますよね。大井:親が先にお墓を購入していたことで、子どもが困ることもあるそうですね。長谷部さん:あります。親がお墓を購入したことは子どもに伝わっていても、そのお墓がどこにあり、亡くなったあとにどうしてほしいのかが引き継がれていない。特に寺院墓地だと、お墓の管理だけでなく、檀家としての付き合いや葬儀の手配も関係します。実際に、葬儀の際にお寺へ連絡していなかったため、納骨をめぐってトラブルになった例もありました。親がお墓を購入していることがわかったら、親が元気なうちに、場所や連絡先、費用、どのように納骨・供養してほしいのかまで聞いておけるとよいですね。家族でお墓を訪ねることも、ひとつの「引き継ぎ」大井:お墓について話すなら、やはり親が元気なうちでしょうか。長谷部さん:そうですね。認知症などで意思を確認することが難しくなってからでは、聞けないことも増えてしまいます。大井:とはいえ、子どもから「お墓をどうする?」と切り出すのは簡単ではありません。どんなふうに切り出すとよいのでしょうか。長谷部さん:最近おすすめしているのは、「自分のルーツを知りたい」「家系図を作ってみたい」と話すことです。ルーツを調べたり、家系図を作ったりするために親や親族の話を聞く必要がありますし、「この人はどこのお墓に眠っているんだっけ?」と自然にお墓の話もできます。一緒にお墓参りへ行き、墓石の名前や年代を見ながら「この人はどんな人だったの?」と聞くのもよいですよね。大井:実際にお墓へ行くことで、自分たちがその場所をどう感じるのかも確かめられそうです。長谷部さん:お墓の前に立つと「子どもたちに来てもらえる場所があるのはいい」「自分もここに入りたい」と感じるかもしれません。反対に、形は必要ないと思う人もいるでしょう。お墓参りが、家族でお墓に対する気持ちを話すきっかけになると思います。大井:長谷部さんも最近お墓をご家族で見に行ったそうですね。長谷部さん:そうなんです。義父が20年以上前にお墓を購入したことは聞いていましたが、長男である夫も場所を把握できていなかったんですよね。義父は90歳を過ぎ、山の上にある墓地へ行くのはたいへんだったので、義母と夫、娘と一緒に訪ねました。管理事務所で教えてもらった場所には、立派な墓石がありました。すでに年季が入った石の風合いが渋くて、すごく義父らしいお墓でしたね。あとで写真を見せると、義父もとても喜んでくれました。私たち家族も場所を把握でき、義父母がそこに入ることも確認できました。それだけで、お墓の引き継ぎができたなって思ったんです。高校生の娘は、ちょっとした旅行のように楽しんでいました。そんな自然なかたちで、お墓の存在を知ってもらえたのもよかったですね。大井:家族で行くことは大事ですよね。先日、私も祖母の十三回忌で、両親と弟と一緒に大分のお寺の納骨堂へ行きました。そのとき、大井家の長男である弟が「ここにあるばあちゃんたちの遺骨や、お父さんとお母さんのお墓のことって、これから俺も考えなきゃいけないのか」と初めて自覚したんです。長谷部さん:それまで、ご自分が引き継ぐ立場だという意識がなかったんですね。大井:おそらく両親や私が何とかするだろうと思っていたんだと思います。もちろん私も一緒に考えますが、わが家では弟も中心になって考えていく立場です。弟には息子がいるので、いずれはその子の意見も大切になる。家族で納骨堂へ行ったからこそ、そんな話ができたのだと思います。長谷部さん:それはとてもいいきっかけになりましたね。お墓や納骨堂を実際に訪れると、自分がどこにつながり、誰へつないでいくのかが具体的になるんだと思います。お墓は命のつながりを可視化してくれる存在大井:長谷部さんにとって、お墓とはどんな存在ですか。長谷部さん:見えない命のつながりを、可視化してくれる存在だと思っています。親族のお墓はもちろん、そうではないお墓も、その人はもうこの世にいないけど、お墓ではその存在をリアルに感じることができます。大井:亡くなった人のための場所でありながら、今を生きる人たちのつながりを考える場所でもあるんですね。長谷部さん:私はときどきお墓巡りをするのですが、お墓の一つひとつにルーツや歴史、物語があると思って歩くと、本当に面白いんです。新しい花が供えられているお墓もあれば、長く人が訪れていないようなお墓もある。誰が眠り、誰がお参りに来て、何を思うのか。お墓を見ていると、人間そのものへの興味にもつながっていきます。大井:この記事を読んでいるみなさんには、どんなことから考えてほしいと思いますか。長谷部さん:いきなり「お墓をどうする?」という本題から入るのではなく、やっぱり「自分にとってお墓とはどんな存在だろう」「家族はどう思っているんだろう」と考えてみてほしいですね。お墓参りに行くなら、「このお墓には誰が入っているんだろう」「なぜ毎年ここへ来るんだろう」と少し立ち止まってみる。子どもと一緒にお墓参りに行くなら、命のつながりについて話してみるのもよいと思います。大井:まずは結論を出すことよりも、家族が何を大切にしているのかを知ることが出発点なのかもしれませんね。家族にとってのお墓の意味を考えながら、一方で、将来の管理についても少しずつ話しておく必要はありますよね。長谷部さん:そうですね。実家もお墓も、親が元気なうちは「親が管理しているから大丈夫」と思いがちです。そのままにしておくと、心のどこかに引っかかり続けるところも似ていますし。親が亡くなったあと、実家とお墓の問題が同時にやってくることもあります。お墓がその土地にあることで、その土地とのつながりを断ち切れず、実家を手放しにくいと感じる人もいるかもしれません。お墓の方向性が見えてくると、「では、実家はどうする?」という話にもつながりやすくなるのではないでしょうか。親が元気なうちに、お墓参りや家系図づくりなど、自然なきっかけから話してみる。お墓について考えることが、家族のこれからを考える時間になればいいなと思います。お墓のことを考えるとき、私たちはつい「残すか、しまうか」という結論を急いでしまいます。でも、その前に、誰が眠っているのか、親や親族はどんな思いを持っているのか、自分はその場所をどう感じるのかを知る時間があってもよいのだと思います。話した結果、「今は決めない」という答えにたどり着くこともあるでしょう。いきなり「お墓をどうする?」と話すのが難しければ、まずは一緒にお墓参りへ行ってみる。「この人はどんな人だったの?」と親に聞いてみる。お墓の話をする時間は、亡くなった人のためだけのものではなく、今を生きる家族が、自分はどこから来て、誰へつないでいくのかを考える時間なのかもしれません。 取材協力:おはかんり撮影:関口佳代