「今あるお墓をこれからどうするか」という相談が増えている——おばら石材さんでは、墓石を建てるだけでなく、移設や墓じまいにも以前から対応されていたのでしょうか。父の代から、お墓を「建てる」ところから「移す・しまう」ところまで、ひと通り対応してきました。以前は新しくお墓を建てるご相談が中心でしたが、いまは移設や墓じまいなど「今あるお墓をこれからどうするか」というご相談が主役になりつつありますね。ちなみに、広島県では、改葬件数が2015年度から2024年度の間に約2倍になっています。2024年度の人口10万人あたりの件数も、全国平均を上回っています(厚生労働省「衛生行政報告例」2015年度・2024年度、総務省統計局「人口推計(2024年10月1日現在)」をもとに、おばら石材合同会社が算出)。——お墓の移設や墓じまいについて、どのような方からの相談が多いですか。大きく分けると、お墓から離れて暮らす子世代と、地元に住む年配の親世代の方です。うちの場合は、若干、親世代からのご相談が多いですね。広島のお墓は、山の上や斜面にあることも少なくありません。山道を歩くことや複数のお墓を管理することが難しくなり、「気持ちはあるけれど、体がついていかない」と相談に来られます。また、年配の方のなかには、一度相談に来られてから2〜3年ほど間が空いて、改めてご連絡をくださる方もいます。相談された時点では「もう少し先でもいいかな」と思われていたのが、ご自身の体調や身のまわりの変化をきっかけに「自分もいつまでも元気とは限らない」と実感され、いまのうちに進めておきたいと思われるようです。——子世代は、また考え方が違うのでしょうか。子世代は、供養する気持ちがないわけではありませんが、実際に管理を引き継ぐ立場だからこそ、費用や時間のことが先に見えてくるのだと思います。遠方だと、お参りに行くだけでも一日仕事になりますからね。親や祖父母が実家で暮らしていれば、人に会うための帰省と一緒にお墓参りができます。でも、実家が空き家になると、帰る理由が「実家とお墓の管理」だけになってしまうこともあります。そうなると、よりコストが気になってしまい、実家じまいや墓じまいを検討する人も少なくないんだと思いますね。墓じまいの前に「続けやすいかたち」を考える——相談に来る方は、すでに墓じまいを決めていることが多いですか。うちに相談に来られる半分くらいの方は「墓じまいをする」と決めていらっしゃる印象です。もう半分くらいは、まだ迷っていて「まず費用を知りたい」「どんな方法があるのか相談したい」という方ですね。話を聞いていると、本当はもう少しお墓を残したいけれど、遠さや管理の大変さから「墓じまいするしかない」と思っている方もいます。そういう方には、墓じまいの前にできることをご案内するようにしているんです。——墓じまいの前にできること、というと、例えばどのような方法がありますか。遠方や山の上にあるなら、住まいの近くや、車から歩きやすい平坦な墓地へ移す方法があります。お墓が5基、10基とあるなら、ひとつにまとめることもできます。ただ、これまで手を合わせてきたお墓をすべて処分するのは忍びない、という方もいらっしゃいます。そういう場合は、竿石(お墓の一番上にある縦長の石)だけを移設先へ持っていき、新しいお墓の後ろや脇に設置する方法もあります。ご先祖のお墓の形を残したまま、限られた広さに収めることができます。お墓を移して小さくして続けることも、現実的な選択肢なんです。お墓の周りの雑草処理が大変なら、防草の施工をして、手入れの少ない状態に整える。家族だけで清掃やお参りを続けることが難しければ、地元の石材店や代行業者へ頼む方法もあります。つまり、「人が頑張ってお墓を維持する」のではなく「お墓のほうを維持しやすい形にする」という考え方です。——なるほど。いまは「墓じまい」という言葉だけが先に広まり、それしか方法がないと思っている人も少なくなさそうです。そうだと思います。本当は今の場所でそのままお墓を維持するか、墓じまいをするかの二択ではないんですよね。実際に、相談者の方に墓じまい以外の選択肢をご提案すると、「それならもう少し続けられるかもしれない」とおっしゃることもあります。お墓を残したい気持ちの根っこには、お墓への価値観や思いがあります。一方、手放したい気持ちの根っこには、管理の負担や将来への不安がある。このふたつを正面からぶつけても、なかなか答えは出ません。清掃を頼めるのか、将来の費用を準備できるのか、管理しやすい場所へ移せるのか。不安の中身をひとつずつ具体的にしていくと、残したい人の気持ちを尊重しながら家族の負担を減らせる方法が見つかると思うんです。お墓は親子だけのものではない。親族まで含めた確認を ——これまで小原さんが相談を受けたなかで、家族のなかで意見がまとまらず、墓じまいが進まなかったケースもありますか。親子だけで話がまとまっていても、途中で親のきょうだいや親戚の意見が出てくることがあるんですよね。例えば、子世代の方から遠方のお墓を墓じまいしたいという相談を受けたケースでは、相談者の方は「父が建てたお墓だから、自分たちで決められる」と思っていたそうですが、話を進めるなかで、お父様のきょうだいがお墓を建てる費用を出していたことがわかったんです。叔父や叔母にとっても、そこは自分の親が眠るお墓です。当然、それぞれに意見がありました。——自分の親が建てたお墓であっても、その親のきょうだいにとっては「自分の親のお墓」なんですよね。そうなんです。土地のことも含めて、いろいろな意見が出てきたため、墓じまいはいったん保留になりました。現在は、お父様の遺骨だけを別のお墓へ移し、今のお墓は叔父や叔母に任せる方法なども検討されています。——こういう可能性を考えて、あらかじめ親以外の親族とも話をしておくことは大事ですね。そうですね。石材店として手続きや選択肢についてアドバイスはできますが、家族の間へ入って意見をまとめることは難しい部分もありますからね。誰にとってのお墓なのか。建立時に誰がお金を出したのか。これから入るつもりの人はいないか。結論を出す前に、親以外に関係する人を確認しておいてほしいですね。親が元気なうちに聞いておきたい、お墓にまつわる3つのこと——お墓について、親が元気なうちに確認しておくべきことはどういったことでしょうか。確認しておいてほしいことは3つあります。1.お墓の現状を写真に撮る傾きや目地の割れ、雑草、周囲の様子も含めて撮影します。離れて暮らす家族が、いまの状態を共有することが大切です。2.誰が管理を続けているのかを話題にする「近くにいる誰かが、黙って管理を続けている状態」を家族みんなが知るだけでも一歩になります。これから先、誰が管理するのかという結論を出さなくてもかまいません。3.名義と場所の情報を確認する墓地の管理者、使用者の名義、土地の所有者、石材店や寺院の連絡先などを確認します。名義人が亡くなったあとでは、調べるのに大きな手間がかかることがあります。まずは、この3つを確認しておくと、あとから困ることが少なくなると思いますね。——最後の3つめはハッとさせられました。私の父方のお墓は、田んぼの中にある集合墓地のような場所にあって、この土地が誰の名義かなんて考えたこともなかったので……。霊園や寺院墓地ではない田舎のお墓の場合、墓石のことだけでなく、その土地が誰のものなのかも確認したほうがいいです。親のきょうだいの土地を借りていたり、近所の方から口約束で使わせてもらっていたりすることも、珍しくないですからね。あと、古い墓地には、文字が彫られていない石や、自然石をお墓としてまつっている場所もあります。親族や別の家のお墓が並んでいると、どこからどこまでが自分の家のお墓なのか、誰にもわからなくなることがあるんです。片方の家が「うちのお墓ではない」と思って手をつけず、もう片方の家も同じように考えれば、そのまま無縁墓になってしまいます。それぞれの地域や家のお墓ならではの事情がありますし、そういった情報って当然ネットで調べても出てこない。親御さんに聞けば一言でわかったことでも、聞ける人がいなくなってからでは確認が難しくなってしまいますから、親御さんが元気なうちに確認しておいてほしいですね。——お墓にまつわる情報だけでなく、親のお墓への思いも元気なうちに聞いておいたほうがいいですよね。そうですね。親御さんが大事にお墓を受け継いでほしいと思っていたのか、そこまで形にはこだわっていなかったのか。意思を確認できなくなってからでは、残された家族が想像して決めるしかありません。墓じまいを終えたあとも、「親は本当はどうしたかったんだろう」と迷いや葛藤が残ることがあります。お墓の境目、親族との関係、親の本当の気持ち。共通しているのは、どれも「聞ける人がいるうちにしか、聞けない」ということだと思います。——とはいえ、なかなかお墓の話を切り出すのって簡単じゃないと思います。どんなきっかけなら話しやすいでしょうか。テレビや新聞でお墓や相続の話題を見かけたときなど、身近な話の流れからつなげるのもひとつです。「うちのお墓って、どうなってるんだっけ」「誰が草を刈ってくれてるの?」と、まず聞いてみるところからで十分です。お盆やお彼岸、法事など、お参りのついでに話すのも自然だと思います。大切なのは、自分の考えを先に伝えるのではなく、まず親御さんの気持ちを聞くことです。——お墓のことはどこかで気になっているものの、後回しにしがちな話題のひとつです。だからこそ、どう話せばいいのかわからないという人も少なくなさそうです。普段はお墓のことを忘れていても、どこかで気になっていて、お盆や法事のたびに思い出しては、「また今度でいいか」と先送りする。そういうことは、少しずつ頭や心の負担になっていると思います。すぐに墓じまいを決める必要はありません。まず現状を知り、誰が管理しているのかを確認し、親や親族の気持ちを聞いてみる。少しでもモヤモヤを減らせたら、日々の気持ちも軽くなるのではないでしょうか。石材店はお墓を残すことにも、しまうことにも寄り添う——小原さんご自身は、ご家族のお墓を今後どうしたいと考えていますか。近くのお寺の墓地に、父が入っているお墓があります。いまは母も僕もお参りに行けますし、管理できています。ただ、自分が石材店だから「お墓はずっと残すべきだ」とは考えていません。僕には娘がいますが、将来の環境によってはどこかでお墓のことを考えるときが来るかもしれない。自分の家のお墓についても、柔軟に考えたいと思っています。——石材店の方がそう話してくださると「お墓のことはもっと柔軟に考えてよいんだ」と思えます。お墓や供養に対する価値観は、今後も変わっていくと思いますか。お墓が当たり前だった時代から、樹木葬、納骨堂、永代供養墓など、方法は多様になりました。でも、亡くなった方を大切にまつりたい、手を合わせたいという根本の気持ちは、昔も今も変わっていないと思います。お墓を続けたい方には、続けやすい形をご提案する。今の形が負担になっているなら、移す、まとめる、手入れを減らす、しまうといった方法をお伝えする。「残すべき」とも「しまうべき」とも決めつけず、その家に合う選択肢を並べてご家族と一緒に考えるのが、これからの石材店の役割だと考えています。多くの石材店は、自社で建立したお墓でなくても、移設や墓じまい、文字彫刻、メンテナンスなどの相談に対応していると思います。「どこの石材店が建てたお墓かわからないから相談できない」なんて思わなくても大丈夫ですよ。ご相談いただいたからといって、その場で墓じまいや工事を決めなければいけないわけではありません。いまの状況を整理するだけでも十分意味があります。相談するなら、その家のお墓の環境や家族の希望を聞いたうえで、いくつかの方法を提案してくれる人がよいと思います。お寺にご相談できるのは、そのお寺での供養や受け入れについてです。石材店であれば移設や工事はもちろん、受け入れ先探しから一緒に対応してくれるところもありますので、そこまで相談できるかどうかを聞いてみるとよいと思います。「墓じまい」という言葉が広く知られるようになったこともあり、私たちはつい「お墓を残すか、しまうか」という結論を急いでしまいます。けれど、小原さんのお話から見えてきたのは、墓じまいを考える前にいくつもの選択肢があるということでした。近くへ移す。数を減らす。草が生えにくいように整える。清掃を頼む。関係する親族の意見を確認し、今は決めない。どれも、お墓をどう大切にしたいのかを考えた先にある選択です。同時に、お墓の境目や土地の所有者、管理を続けている人、親が本当はどうしたいのかなど、「聞ける人が元気なうちにしか聞けないこと」もあります。お盆などで家族が集まったからといって、いきなり墓じまいの話をしてその場で結論を出さなくてもよいのだと思います。「このお墓には誰が入っているんだっけ」「いまは誰が草刈りしてくれているの?」と、少し聞いてみる。写真を撮り、場所や連絡先を共有しておく。そんな小さな確認が、家族それぞれの思いを知り、実家のお墓のこれからを考える最初の一歩になるのかもしれません。 取材協力:おばら石材