母亡きあと、少しずつモノを手放していった父――ここまではお母様との実家の片づけのお話でした。その後、お父様とはどのように片づけを進めていきましたか?母が亡くなってからは、父が主導で片づけをしていきました。父は、かなり早い段階から、母の洋服を処分していましたね。とはいえ、全部捨てたわけではなく、思い出の品だけは残しています。父から「これだけは持っていてほしい」と1枚のブラウスを託されました。それは父が母に贈ったブラウスで、よく着ていたもの。このブラウスを見れば、母をすぐに思い出せる。そういう1枚です。母と違い、父の場合は、思い出は全部残すのではなく、本当に大切な1つだけを残すという考えでした。――洋服のほかに片づけたモノはありますか?母の死後、とにかく父にとって負担だったのは手続き関係でした。こんなに大変なのかと実感したそうです。だから「自分のときは娘を困らせてはいけない」と、保険の連絡先や手続き方法、担当者名などをリスト化してくれました。相続や手続きで必要になる情報を、娘の私が追いやすい形で残してくれたんです。父が一人暮らしになってからは、家のリフォームを進めながら片づけを進めていきました。リフォームする際はモノを移動させなければなりません。キッチンやリビングなどのリフォームを始める前に場所ごとにモノを整理しました。最初は父も「まだ使うかも」と残していたモノがあったんです。でも慣れてきた頃には「もういいかな」と手放す判断が早くなっていきました。手放したのは本や空き箱などです。グランドピアノも処分しました。父が最後に残した「家族への贈り物」と実家じまい――お父様との片づけはスムーズだったんですね。はい、スムーズでしたね。その後、父は、入院中に「自分史」の作成を始めたんです。私はリライトしたり、一緒に写真を選んだりしました。この冊子の完成見本を確認したその日に、父は亡くなりました。写真や思い出のモノを整理しきれていませんでしたが、父の「自分史」が残ったことで、父も私も気持ちの整理ができたと感じています。父の生前整理のおかげで、葬儀も死後の手続きもかなり楽でした。石材店やガス会社、リフォーム担当者など、父が付き合っていた地域の事業者との関係が、大きな助けになりました。――お父様が亡くなったのが2019年7月で、実家を売却したのが2023年9月とブランクがあります。お父さまが亡くなってから、すぐに実家じまいには進まなかったんですね。父が亡くなってからも、月に1回は実家に通ってはいたんです。実家の片づけを続け、傷まないように風通しをしていました。ところが、父が亡くなった翌年からコロナ禍に入って、移動が難しくなり、すぐに実家じまいをすることができなくなってしまったんです。実家の空き家管理で困ったのはゴミ問題です。ライフラインは維持していたので、実家に行っても最低限の滞在はできましたが、ゴミの日まで泊まるわけにはいきません。生ゴミを処理できないため、食事はゴミの少ないものを選んでいました。固定資産税や水道・ガスの基本料金も支払い続けていて、維持コストもかなりかかっていたんですね。ただ、家を残したいという父の思いを知っていたので、実家じまいには迷いがありました。将来的に住む、建て替えて活用するといったことを検討したこともあります。――それでも実家じまいしようと決意されたきっかけは何だったんですか。大きな転機は台風被害にあったことでした。雨漏りによって壁が傷み、修繕コスト問題に直面したからです。古い家を活用するには多額の修繕費がかかる。それなら「実家を形として残すことをやめよう」と、ようやく実家じまいを決意できました。取り壊しが前提となり、家の中のモノを完全撤去する必要がなくなりました。結果として、片づけ対象を「貴重品」と「思い出の品」に絞れたおかげで、実家じまいの負担が軽減されました。自分では判断ができず、親戚の助けを借りて「寄贈」という形で手放したモノもあります。売却は、実家近くの地元の不動産会社が請け負ってくれました。父とつながりがあったので、さまざまな配慮ある対応をしてもらえてありがたかったです。売却後、家は解体され、敷地には新しい住宅が建てられています。――Iさん自身、実家じまいを振り返って、今感じることはどんなことですか?実家じまいを終えてほっとしています。後悔はありません。私には、母のブラウスと父の自分史があります。そして、家を解体する前に、実家のシンボルでもあった青い三角屋根の瓦を1枚持ち帰ってきたんです。私はこの青い三角屋根が大好きでした。実家そのものはなくなっても、本当に大切なモノは思い出として私に残されています。実家じまいをするときに感じたのは、親が付き合っていた地域の人たちとのつながりの大切さ。これらの関係性が、想像以上に大きな支えとなりました。実家じまいを終えた今は、支えとなってくれた人たちに「感謝」しかありません。Iさんのお話をうかがって印象的だったのは、実家じまいは「家をなくすこと」ではないということ。家を手放すことになったとしても、その家で育まれた思い出や家族の歴史が消えるわけではありません。むしろ、Iさんのお父様が残されたリストや自分史は「子どもに迷惑をかけたくない」という親心そのものです。実家じまいとは、モノを処分することではなく、親から子へ思いを引き継ぐ時間でもあるのだとあらためて感じました。第31回は、親と始めた実家の書類整理について、整理収納アドバイザーの私自身の経験談をお送りします。