家具の価値は、家具そのものではなく「人の心」が決める——家具のリメイクを手がけるようになった経緯を教えてください。もともとは、個人の木工作家として家具を製作していました。すると、「家具を作れるなら、壊れた家具も直せるでしょう」と相談に来られる方が少しずつ増えてきたんです。最初は修理から始まり、お客さまから「こんなことはできますか」と言われたことに応えていくうちに、家具を今の暮らしに合わせてつくり変えるリメイクへつながっていきました。自分が持っている技術が、家具を作ること以外にも役立つのだと気づいたことがはじまりですね。修理やリメイクに携わって10年弱になりますが、「思い出の家具を受け継ぎたい」「直して使い続けたい」という方が、少しずつ増えてきたと感じています。——長く家具と向き合うなかで、「家具は単なる物ではない」と感じることはありますか。家具自体は、あくまで物だと思っています。ただ、そこに人の心が入ることで、「受け継ぐもの」になっていくのではないでしょうか。同じ家具でも、感じる価値は人によって違います。親御さんが価値のある家具だと思っていても、子どもが同じように感じるとは限りません。反対に、持ち主本人が「そんなに大した家具ではない」と思っていても、子どもや孫にとっては、かけがえのないものになることがあるんですよね。家具そのものが高価かどうか、いい材料が使われているかどうかだけではないんです。その家具に誰を思い浮かべるのか、どんな記憶があるのかによって、特別なものになっていくのだと思います。親には「何でもない家具」でも、子どもや孫には特別なもの——家具の持ち主と受け継ぐ人とで、家具に対する思いが違うこともあるのですね。そうですね。最近、建具職人だったおじいさまが自分で作り、仕事に使っていた机を、お孫さんが受け継いだ事例がありました。おじいさまはすでに職人を引退されていますが、ご健在です。ご本人は、その机を「捨ててもかまわない」と考えていたようなのですが、東京で暮らしているお孫さんはこれからも使い続けたいと考えていたんです。もとの机は大きかったので、使える部材を生かしながら、小さなサイドテーブルへリメイクしました。お孫さんにとっては、単なる古い机ではありません。「おじいちゃんが自分で作り、使っていた」という記憶も含めて、特別な家具になっていたのだと思います。%3Csmall%3E%E3%83%87%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%82%922%E3%81%A4%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AB%E3%81%AB%E3%83%AA%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%AF%3C%2Fsmall%3E——すてきなエピソードですね。実家じまいや家の解体をきっかけに相談される方もいますか。いらっしゃいますよ。親御さんが「これはいい家具だ」と言って長く使っていた古いたんすを、家の解体前に引き取ったこともありました。そのままの大きさでは娘さんの家に入らないため、小さくして使えるようにしてほしいというご依頼でした。職人の立場から見れば、必ずしも特別に高価な材料が使われた家具ではないこともあります。それでも、親御さんが「いい家具だ」と大切にしていた姿を見てきた娘さんにとっては、簡単には捨てられないものだったのでしょう。ほかにも、親御さんがまだ元気なうちに、実家にある家具のなかからひとつだけ選び、「これは自分が引き継ぎたい」と相談される方もいます。親御さん自身は「そんなに大した家具ではないよ」と言っていても、子どもが「これを使いたい」と言うと、やはりうれしそうなんですよね。自分が長く使ってきたものを、子どもが引き継いでくれる。そのこと自体がうれしいのだと思います。家具を買った本人にとっては、長く使ってきた生活用品のひとつかもしれません。でも、子どもにとっては、実家に帰るたびに目にしていた家具だったり、家族で囲んだテーブルだったりしますよね。受け継ぐ側は、家具の良し悪しよりも、その家具を通して親や家族を感じているのではないでしょうか。今の暮らしに合わない家具も、形を変えれば使い続けられる——どのような家具のリメイクを相談されることが多いですか。一番多いのはテーブルです。次に、たんすなどの箱物家具ですね。テーブルは形や大きさを変えやすいこともあり、座卓をダイニングテーブルにしたり、天板を使って机を作ったりすることがあります。特に座卓は、昔の家にはよくありますが、今は床に座る生活をしなくなり、そのままでは使わないという方も多いですよね。脚をつけ替えて椅子と合わせられる高さにすれば、今の暮らしでも使い続けられます。——実家に大きな婚礼家具があるという方も少なくないと思いますが、リメイクできるのでしょうか。婚礼たんすは大きいので、「このままでは置けないけれど、親に買ってもらったものだから捨てられない」と相談される方がいます。若いころに比べて収納する物が減り、「これほど大きなたんすは必要ない」と感じる方もいますね。その場合は、全体を小さくして使い続けることもできます。あと、着物を収納するための引き出しが並んでいる婚礼たんすを、中の引き出しを取り外して、棚として使えるようにしたこともあります。外側の傷みが激しい場合は、たんすの内側に入っていた着物用の引き出しだけを生かし、新しい収納家具に作り替えることもできます。たんすを丸ごと残せなくても、扉、引き出し、天板といった状態の良い一部分を受け継ぐことはできるんです。%3Csmall%3E%E7%9D%80%E7%89%A9%E3%82%92%E5%8F%8E%E7%B4%8D%E3%81%99%E3%82%8B%E5%BC%95%E3%81%8D%E5%87%BA%E3%81%97%E3%82%92%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E6%A3%9A%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%9F%E4%BE%8B%3C%2Fsmall%3E——そういったリメイクの仕方もあるんですね。そうなんです。家具全体を今の住まいに置くのは難しくても、引き出しを使って小物入れを作ったり、木材の一部を別の家具に使ったりすることもできます。「残す」というと、もとの姿のまま保管することを想像しがちですが、まったく同じ形で残す必要はありません。どこかにその家具らしさや思い出せる部分が残っていれば、それだけでも意味があるのではないでしょうか。——林さんがこれまで手がけたなかで、特に印象に残っている家具のリメイクについてもうかがいたいです。家具の修理やリメイクを始めたころに手がけた、古い座卓が印象に残っています。農家の納屋のような場所に長い間しまわれていた座卓で、裏側には文字も書かれていました。表面はきれいに削りましたが、裏の文字はできるだけ残しながら、今の暮らしに合うテーブルへつくり変えたんです。普段は見えない部分ですが、昔から残っている文字や傷には、その家具が過ごしてきた時間が表れています。そういうものは、できれば残したいと思っています。納品後、お客さまが実際に使っている様子を写真で送ってくださったんです。新しい住まいにもなじんでいて、とてもすてきでした。%3Csmall%3E%EF%BC%88Before%EF%BC%89%E7%B4%8D%E5%B1%8B%E3%81%AB%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E5%BA%A7%E5%8D%93%3C%2Fsmall%3E%3Csmall%3E%EF%BC%88After%EF%BC%89%E4%BB%8A%E3%81%AE%E6%9A%AE%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%AB%E5%90%88%E3%81%86%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%81%AB%E3%83%AA%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%AF%3C%2Fsmall%3E——新しい家具へ生まれ変わらせながら、もとの家具らしさも残すのがリメイクのよさなのかもしれないですね。そうですね。新しい形を提案するときも、もとの家具の雰囲気や特徴をすべて崩してしまわないようにしています。家具そのものは、小さくなったり、形が変わったりしただけかもしれません。でも、今の暮らしに合う形にすることで、これからも使い続けられるようになります。お客さまがリメイク後の家具を見たときに思い浮かべるのは、家具そのものというより、親御さんやおじいさま、おばあさまなのではないでしょうか。その人への思いが、使える家具という形になって残っていく。それを意識しながらリメイクするようにしています。残すか手放すかに、共通の基準はない——実家の家具を残すか、手放すか。迷ったときは、どのように考えればよいのでしょうか。共通する基準はないと思います。家具に対する思いや考え方は、一人ひとり違いますから。まずは、自分が何に迷っているのかを整理することだと思います。置く場所がないことなのか、家具が大きすぎることなのか。家具全体は難しくても、一部分なら残したいのか。迷っている理由がわかれば、家具を小さくしたり、引き出しや天板だけを使ったりする方法も考えられます。一方で、そこまでして残したいわけではないと気づくこともあるでしょう。実家にある家具をすべて引き継ぐことは現実的ではありません。どの家具にどのような思いがあるのか、自分は何を残したいのかを考えることになるのではないでしょうか。私も、無理にリメイクをおすすめすることはないんです。どのような形にできるかを提案したうえで、最終的にはご本人に決めていただいています。必要だと思わない人にまで、家具を残すことをすすめるつもりはありません。——それでもリメイクを選ぶ方は、家具に強い思いを持っているのでしょうか。そうだと思います。単にその大きさや形の家具が必要なのであれば、新しい家具を買うという方法もあります。それでもリメイクを選ぶのは、その家具がほかでは買えないものだと思っているからですよね。家具を見ることで、親御さんや祖父母を思い浮かべられる。自分が育った家や、家族と過ごした時間を思い出せる。そうした思いを残したいという気持ちが、リメイクを選ぶ理由になっているのだと思います。家具にまつわる「物語」が、受け継ぎたい気持ちにつながる——親が元気なうちに、実家で使っている家具について話しておくことには、どのような意味があると思いますか。家具を受け継ごうとする方は、その家具について親御さんから話を聞いていることが多いように感じます。「この家具にはこんな思い出がある」「こういう経緯で買った」「自分の親に買ってもらった」といった話です。家具について詳しく聞いたことがなくても、食卓や座卓など、自分自身が長く使ってきた家具には、すでに思い出があります。その家具についての話を聞いていることや、自分も一緒に使っていたことが、「これを引き継ぎたい」という気持ちにつながるのだと思います。——ちなみに、林さんご自身は残しておきたかった実家の家具はありますか。私が独立したころに実家を建て替え、古い家は壊してしまったんです。茅葺き屋根の古い家だったので、昔の家具もありましたが、今はほとんど残っていません。振り返ると、祖母が使っていた小さなたんすは残しておけばよかったと思いますね。私はおばあちゃん子だったので、たんすそのものというより、祖母との思い出につながる物を残しておきたかったんですよね。もし今も残っていたら、きれいにして、奥行きを小さくするなどのリメイクをして使っていたかもしれません。ちなみに現在、両親が使っているテーブルは私が作ったものです。将来、ほかに使う人がいなければ、私が引き継ぐかもしれません。自分が作ったものですし、材料にも思い入れがありますから。——実家の家具をどうするか悩んでいる方へ、伝えたいことはありますか。家具を絶対に残しておいたほうがよいとは思っていません。ただ、家具は「そのまま使うか、捨てるか」の二択ではないことを知ってもらいたいです。小さくしたり、用途を変えたり、一部分だけを生かしたりすることもできます。私だけでなく、全国には家具の修理やリメイクに対応する作家や職人がいます。家具のひらやまでも、スマホから利用できる無料のオンライン相談を受け付けています。「残したいけれど、今の家では使えない」と感じたときには、形を変えて受け継ぐ方法もあることを思い出してもらえたらうれしいですね。私自身、2017年に大分にあった実家を手放し、両親が関東のマンションへ移ることになったとき、大井家にもたくさんの家具がありました。食器棚、本棚、古いたんす。そして、父が家の外へ引っ張り出すのもひと苦労だった、大きな婚礼たんす——それらは新しい住まいには入らなかったため、「持っていけない家具は処分するしかない」と考え、多くの家具を手放しました。当時は、それが現実的な選択だったと思います。ただ、林さんの話を聞きながら、婚礼たんすの着物用の引き出しだけを残したり、木材の一部を小さな家具に生かしたりする方法もあったのだと知りました。リメイクという選択肢を知っていたら、ひとつくらいは違う形で残していたかもしれません。実家の家具をすべて残すことが必ずしも正解とは限りませんし、手放すことが間違いなのでもありません。けれど、その家具は誰が選んだものなのか、どんなときに買ったのか、家族はそこでどのような時間を過ごしてきたのか。親が元気なうちに家具にまつわる話を聞いておけば、「残したいもの」と「手放してよいもの」を考える手がかりになると思います。「この家具、いつから家にあるんだっけ」そんな何気ない問いかけから、家具とともにあった家族の物語が見えてくるかもしれません。 取材協力:株式会社ひらやま(家具のひらやま)